第8回研究会 2016年日本地理学会春季学術大会
時 期:2016年3月22日 13時~15時
会 場:早稲田大学 16-309教室
演 題:「自治体による地域包括ケアシステム構築に関わるアンケート調査結果報告」
講演者:畠山輝雄(鳴門教育大)・中村 努(高知大)・西 律子(明治学院大・非)・三浦尚子(お茶の水女子大・院)
参加者:22名

要 旨: 本発表では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築に関わる全国の地方自治体の実態把握を目的として実施したアンケート調査の結果を報告した。
 アンケート調査は、全国の地方自治体を対象に郵送配布および、郵送もしくはE-mailでの回収により実施した。2015年11月に全国の47都道府県および1781市区町村(福島県内の原発事故の避難指示区域である7町村を除く)に配布し、34都道府県(72.3%)、616市区町村(35.5%)からの回収があった。
 市区町村版のアンケート結果は以下の通りである。地域包括ケアシステムが構築されている割合は大規模自治体において高かった。また、地域における困難事例などの課題解決のために実施される「地域ケア会議」については、8割以上の自治体で実施されているが、小規模自治体を中心に開催されていないケースもみられた。この地域ケア会議については、市区町村単位で実施しているケースが多いが、人口規模が比較的大きい自治体においては日常生活圏域やそれよりも小さい単位で実施しているケースも多くみられた。また、地域ケア会議の構成員については、地域包括支援センター職員や介護サービス事業者、市区町村職員(介護関連)、社会福祉協議会職員が全体的に多く、市区町村単位の会議では医師会関係者が、日常生活圏域の会議では民生委員・児童委員、自治会・町内会関係者が多いことが特徴としてみられた。しかし、障害者福祉や児童福祉関連の参加者はごくわずかであり、多分野の参加による地域ケア会議とはなっていない実情が明らかとなった。
 地域包括支援センター数では、人口との相関関係(r=0.91)が非常に強く、高齢者数や日常生活圏域数を根拠に設置したケースが多かった。また運営主体については、小規模自治体では自治体による直営が、大規模自治体では社会福祉法人や医療法人などへの委託が多くみられた。地域包括支援センター運営協議会の構成においては、民生委員・児童委員や介護サービス事業者職員、社会福祉協議会職員、医師会関係者が多く、こちらも障害者福祉や児童福祉関連の参加者はごくわずかであり、多分野の参加による協議会とはなっていなかった。
 地域包括ケアシステムにおいて最もミクロな単位となるケースが多い日常生活圏域については、人口との相関(r=0.85)が非常に強かった。2圏域以上ある自治体において日常生活圏域と一致している区域割を質問したところ、中学校区や小学校区、民生委員の区域割、合併前の市町村域などと一致しているケースが多く、これらの自治体ではコミュニティ単位を意識した地域包括ケアシステムの構築が実施されていることがうかがえる。しかし、一致している区域割が特になしとの回答も多くみられ、これらでは地域包括ケアシステムにおいて地域包括支援センターと地域との連携が困難になるケースも想定される。
 次に、障害者福祉関連における相談支援体制について、特定相談支援事業所および一般相談支援事業の設置数は、いずれの事業も人口と非常に強い相関がみられた。一方、財政力指数との相関は人口と比較して弱く、人口・財政力指数分類別にみると、事業者数の平均は財政力指数が1以上であっても設置数が最も多いとは限らないことがわかった。また一般相談支援事業者数は、特定相談支援事業者数と比較して設置数の平均は半分ほどに留まっており、福祉施設からの地域生活への移行率において0から2%の自治体が全体の8割弱と極めて低い現状であったことから、今後地域移行・定着支援事業を担う一般相談支援事業所の設置が進まなければ、移行率は上がらないことが推察される。他方、一般就労への移行率は、0%の自治体が4割を占めその難しさを示唆するが、4%までの自治体もほぼ同数あり、就労支援に特化した障害者施策の成果が見受けられた。
 また、アンケートでは「日本版CCRC構想(生涯活躍のまち)」が提唱されるなかで、特に低所得層高齢者の移住の実態とその位置づけを捉える観点から、老人福祉法に基づく、「やむを得ない事由による措置」受け入れについて問いを設けた。人口規模2千人から政令指定都市までの44市町村から受け入れている(受け入れの予定)との回答を得た。また、それらの自治体では、要請を受けた自治体や、同都道府県内からの受け入れが多数を占めた。2014年の東京都独自調査では、措置を含め3,820人が他府県の有料老人ホーム等への移動が報告されており、マクロデータ上に浮上しない移動の実態が推測できる。東京都独自の問題性であるのかを含め、さらなる調査研究が必要とされる。
 都道府県版のアンケート結果は以下の通りである。都道府県において地域包括ケアシステムに関するガイドラインを作成しているケースは11.8%とわずかであった。都道府県が地域包括ケアシステム構築に関して実施していることは、市町村への人材的支援、人材育成、特養等のハード整備への補助などの金銭的支援、市町村域を超えた広域的な連携調整などが中心である。
 へき地医療拠点病院数について、5~9箇所の都道府県が半数近く存在した。20箇所以上を有する小規模人口の都道府県がみられる一方、へき地医療拠点病院が存在しない大規模人口の都道府県が多いなど、都道府県によってばらつきが見られた。へき地医療拠点病院が実施している、へき地診療所等への医師派遣、巡回診療回数は都道府県による差が大きかった。医師派遣実施回数はへき地医療拠点病院数と相関関係(r=0.68)が強く、巡回診療実施回数は相関関係(r=0.45)が弱かった。各都道府県単位で設置される、へき地医療支援機構からへき地への医師派遣実施回数についても、200回以上の小規模人口都道府県があるのに対して、大規模人口都道府県の多くは0回と、都道府県による差が大きかった。
 医療情報ネットワークの運営主体について、医師会、都道府県、公的病院、任意団体の順に多かった。公的病院が運営主体の場合、都道府県が関与していないケースが半分以上ある。医師会やNPO法人、任意団体が運営主体の場合、都道府県は財政的支援が主であった。運営主体別にみた情報の内容は、都道府県では医療機能情報、NPO法人では診療予約情報、都道府県以外では診療録にかかわる内容が共有される傾向が強い。参加機関の地理的範囲は、単一の都道府県全域、単一の二次医療圏で69.3%を占めた。大都市圏では都道府県より小さいスケールの医療情報ネットワークが多く、非大都市圏では単一の都道府県の全域を対象とした医療情報ネットワークが相対的に多かった。
 以上の結果を踏まえ、本報告者のほか、科研グループ内の各研究者における各種事例研究と整合させることで、マクロスケールとミクロスケールでの重層的な研究を実施していきたい。  
  
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