平成21年度 現代GP講義
キャリアプランニングT (コンサルティング:中村文子先生)

“コンサルティングを学ぶ”ことを目的に、エネルギー業界を代表して、株式会社東京エネルギーリサーチ代表取締役社長の中村文子先生に全3回の講義をしていただきました。
 地球温暖化とエネルギー事情の現状を学び、温暖化問題に対する電力会社の取り組み、また私たち自身が身近にできること、民間企業の取り組みを理解した上で、エネルギーをどのように効率よく生み出して使っていくことが地球環境の改善を図るために大切かをお話しいただきました。また、最後の授業では、受講生が「家庭、個人でできる身近な省エネルギー行動」もしくは「企業の環境行動」について調べ、発表を行いました。


第1回講義【地球温暖化の現状と私達にできること】

講師の方の紹介と株式会社東京エネルギーリサーチ創設について

中村先生は1978年に東京電力に入社、2000年に社内ベンチャー企業制度への応募を経て、東京電力の子会社として株式会社東京エネルギーリサーチを創設されました。その後、完全独立化を果たし、エネルギー分野を中心にリサーチに関するコンサルティング事業を手がけていらっしゃいます。


中村先生のキャリアアップ

中村先生はまず、洗濯について省エネルギーを実現する方法を模索しました。洗濯洗剤で有名な株式会社花王と協力して汚れと省エネについて研究を行い、多種多様な汚れが落ちてかつ電力の無駄を省く的確なポイントを発見しました。これを起点に実験手法や検証、統計学など大学時代に学んだことを生かして、新しい提案を次々と打ち立てます。「これからは自分の居場所を自分で作っていく時代。自分の強みを生かす時代。会社が居場所を与えてくれると思ってはいけない。」というお言葉が身にしみました。
 こうして次に配属されたお客様相談係で、アンケート調査の統計をとっていた経験が認められて、1987年、東京電力が東京通信事業への参入を図ったのを機に、新しく創設されたシステム研究所へ移ることになります。コンピューターソフトウェアや人工知能を研究する部門で、お客様相談のベテランの人が持ちえるような知識を、新人の人でも得られるような人工知能システムの開発に取り組みました。
 ここで転機が訪れます。旦那さんが仕事の都合で3年間ロンドンに行くことになり、お子さんのことも考えた末、同行を決意したのです。異例のことに3年の休職が認められて、中村先生はロンドンに飛び立ちます。先生は何か会社に寄与できるものを得て帰ってこようという考えから、その間ロンドンの大学院で人工知能の分野や認知科学を学びました。
 しかし、会社に復帰するとすでに人工知能の研究案は廃止されているという驚きの事実を知り、同じ研究所内の別のグループの統計数理グループに異動となり、ここで昼と夜、季節によって変わる電力の変動についての研究を始めます。電気はためられないので、最大の出力に対応できる発電設備を整えておかなくてはならないのですが、これは効率が悪いため平均的に電気を使ってもらうのが一番望ましいのです。そのため、企業と契約を結び電気の消費量が少ない夜に労働をシフトしてもらう取り組みを東電が行っているのですが、それに関する研究を担当しました。発電所の設備投資で浮いた資金と、企業協力金として契約企業に渡す資金の按配を考え、お互いの利益を計算した上でこれをどのように実現するかを調査します。これには膨大なデータが必要になっています。しかし、東電の中にはあまり整備されていませんでしたので、中村先生は、今後はそういったデータを扱う組織が必要になるだろうと考え、ちょうど募集されていた社内ベンチャー制度をかつようしてそれを取り扱う専門の会社を作ってしまおうと考えました。これが、株式会社東京エネルギーリサーチの原点です。


株式会社東京エネルギーリサーチの三つの柱(事業内容)

  1. よくわかる:(教育コンサルティング)→省エネルギーに関する教材の開発、販売。
  2. よくみえる:(調査)→エネルギー実測調査。
    企業のマネジメント関連調査。
    生活関連のマーケティング調査。
  3. 行動できる:(省エネルギーグッズの販売)


第2回講義

省エネの基本、衣食住のポイント

先生は、常に意識して習慣化することが大切であり、これからの時代は子供のころからエコロジー(以降「エコ」)の意識を基本的に考えるようにすべきだと仰いました。衣食住それぞれの生活の中で、買うとき、使うとき、使わないときを考えてみると、省エネを実行できるポイントが多いことが実感できます。
 例えば“住生活で電球を買うとき”、白熱灯、蛍光灯、LEDの3種類から選ぶとしたら、たとえ価格は白熱灯や蛍光灯の方が安かったとしても、LEDを選択したほうが電気の消費量が5分の1であり、LEDの寿命は4倍から6倍も長いため結果的にお得でかつ環境にも優しいのです。“食生活で買うとき”にはフードマイレージ(産地はどこで、収穫されてからどのくらいの距離を経て売られているのか)を意識し、季節の食材を選ぶことがポイントになります。驚いたことに、ハウス栽培と通常の栽培方法で消費するエネルギーを比較すると、前者は10倍ものエネルギーを消費しているそうです。
 自動販売機について興味深いお話も伺いました。自動販売機には蓄熱システムが使われていて、特に夏の真昼、暑い時間帯に、設置してあるすべての自動販売機が稼動して一気に電力が消費されることを防ぐために、周辺の各自動販売機の電源がオンになる時間帯をずらして設定しておきます。それぞれの自動販売機がオンになっている状態の時に飲料をしっかり冷やしておいて、オフになったときはその余冷を使って飲料の温度をキープしておくという仕組みです。
 このように、生活において省エネルギーのポイントは数多くありますが、まとめると省エネの基本は<W・h・C>だそうです。

  • (ワット) → 電化製品を買う時点で、消費電力や待機電力に気をつける。
    使うときは、強弱、メモリを調整して効率を考える。
  • ( 時間 ) → 使用時間を少なくする、消し忘れをなくす。
  • (二酸化炭素排出原単位) → 昼時、電力は最大で消費されるので、使う時間帯を
    考える。


家庭でのエネルギー消費

家庭でのエネルギー消費は多いものから、照明や家電製品のエネルギー消費=30.1%、給湯=14.3%、暖房=11.9%です。一番進歩した家電製品は冷蔵庫で、同じ300gのものを1996年と2002年とで比較すると、半分以上の省エネ化がなされているそうです。また、売れ筋の300gから400gの冷蔵庫が一番の省エネであり、最も改良されていて、今では、ほとんどの300g冷蔵庫でトップランナー基準をクリアしています。(トップランナー方式=消費電力を一番削減できている会社の商品の値を目標に政府が定めたもの)。そのため、一人暮らし用の100gのものは場合によっては逆に大きい電力を消費してしまう恐れがあり、購入時に十分注意しなくてはなりません。
 また、面白い調査結果もありました。200gのお風呂を沸かすときには人間が1日生きているだけと同じ量の二酸化炭素を出し、10kmのドライブではその2倍も排出しているというのです。太さ30cmの木が1日に吸収する二酸化炭素の量は人間が1日に呼吸で排出する二酸化炭素の2分の1であり、早く対策を打たないと植林だけでは到底まかないきれない事態になるのではないかと危機感を覚えました。このような基準を知ることで、より意識を高めることができます。


電力会社の省エネ推進

電力会社はエネルギーのベストミックスに力を入れているそうです。例えば、揚水式水力発電といって、ダムの下にある水を電力消費の少ない夜中にくみ上げておき昼間落水させることで発電する、いわば蓄電の方法ですが、この水力も単独では微力ながらも、火力、原子力発電と組み合わせることによってとても重要なポストを占めることになります。主にこの三者を利用して、一番効率がよくコストが低いポイントを見つけうまく組み合わせて使うことで、需要の変化に対応した電源の最適化を行うことが可能になるのです。万が一石油が入手できなくなった場合などを考えて、電源を多様化することでリスクヘッジを行っています。
 また、送電をしている間にも放熱というロスがあります。この送電線、配電線のロスを減らそうという努力をしているそうです。一方、家庭への直接的な取り組みでは、空気中の熱を移動して空気から熱を吸収し、お湯を沸かすエコキュートを推進しています。エコキュートで電力に大気熱の力を合わせることによって、電力だけでお湯を沸かすのと比べて3倍のエネルギーが得られることからも、これからますます有用になってくるアイテムだと思います。


第3回講義

最後の授業では、企業の環境行動か身近な省エネルギー行動について調べてきたことについて、受講学生が発表を行いました。以下がその内容です。


「企業の環境行動〜空間設定からのエコロジー〜」

文教育学部 言語文化学科 3年 Oさん

  • 動機:
    • 次に電化製品を買い換えるときは省エネの電化製品にすることが当たり前になってきた昨今、では次に建物を建てるときには省エネ型の建築にシフトすべきではないか。

  • 深夜営業の居酒屋チェーン店とコンビニエンスストアの企業努力について:
    • 店舗の24時間モニタリングで無駄を暴き出し、エネルギーマネージメント実施。
    • 店舗内のエアコンや什器の廃熱を暖房などに利用した総合熱利用システムの導入。
    • 照明の省エネで太陽光の入り具合によって照度を調整する調光システムの設置。

  • 環境とデザイン性を融合した建設・設計会社の試み:
    • 熱損失の少ないエネルギー効率のよい建材の使用。
    • 自家発電型の手洗い器や天窓の多い設計。
    • 高効率の棚下灯によるランニングコストの削減の試み。

  • エコ意識とエンターテインメントの合体:
    • 環境に配慮した設計のホテル。
    • 自然を生かしたおもてなしの提供。
    • エコは楽しいという意識改革。

  • まとめ:
    • 環境に関する企業努力は、昨今の地球温暖化への関心の高まりからして盛んになったと思う。特にリーディングカンパニーにおいては、何かしらの環境CSR行動は行っているのが当たり前という現状にあると感じた。その上で、果たして地球環境改善の取り組みが企業PRのみを目的とした広告になっていないか、きちんとしたポリシーが備わっているかを見極めることが重要になってくると思う。買い物やレジャーなどの日常生活で何を選択するかの一つの指針として、質の高い環境活動を行っているか消費者が厳しい目で見ることの大切さを実感した。


「身近な省エネルギー行動」

文教育学部 人文科学科 1年 Mさん

  • 動機:
    • エコというと、自転車に乗ることなどの小さいことしか思い浮かばなかったが、タイミング別衣食住のポイント(第2回講義)から、いまから実現できることは何かを考えた。

  • 実際の生活の見直し:
    • 一人暮らしを始めた2月から11月までの電気料金の推移から、冷房を使っていた夏の盛りに電気代がかかると分析。

  • 身近なエコロジー行動の提案:
    • 洗濯についてのエコ。洗濯機のコンセントを抜いたらどうか。最近商品化されたすすぎ1回でいいというような、洗剤を選んだらどうか。

  • 食事についてのエコロジー行動の提案:
    • 安さにとらわれずフードマイレージを意識し、なるべく国産や近郊でとれた野菜を食べる。旬の野菜や果物について知識を深めることも必要。


  • 電気へのシフト:
    • 電子レンジとガスを比較すると電子レンジのほうが効率がよい。
    • 電子レンジで野菜をやわらかくしてから煮物を調理したり、余熱を利用することで料理に賢く電子レンジを使用する。
    • 作りおきして小分けにして冷凍保存をする。


  • 冬場の対策:
    • 暖房の使用は設定温度を控え、分厚い部屋着をきるようにする。
    • 電気ポットで沸かしたお湯で湯たんぽを活用する。

  • まとめ:
    • 自分の生活を振り返って、身近な生活が将来への第一歩だと感じたので、まずは生活を見直すことから始めようと思った。


「企業の環境行動〜電鉄と不動産を比較〜」

生活科学部 人間生活学科 3年 Hさん

  • 動機:
    • 町全体に大きな影響を及ぼす企業を検証しようと思った。そこで某電鉄会社と某不動産会社を比較した。双方とも1年単位で目標を定めている。

  • 電鉄会社について:
    • 二酸化炭素排出量が横ばいだが、電車の本数が増えている期間にもかかわらず二酸化炭素排出量が増えていないのは、環境行動がなんらかの効を奏しているからではないか。
    • 車両から排出される二酸化炭素は従来と比べて60%削減を達成。
    • 使わなくなった車両は地方に譲渡している。
    • 見える化の試み。元住吉駅に太陽光発電装置を設置して、どれくらい発電できているのか、その発電量が家何件分に相当するのかについて、パネルに表示されている。
    • 成果としては、約20件分で駅の10%ほどしか発電されていないのが残念。

  • 不動産会社について:
    • 建てることが仕事なので二酸化炭素排出量が増えてしまうのは仕方ないが、大型施設の建設が増えているという要因もあるものの、床面積あたりに換算すると排出量が減っているという面も見られる。
    • 不動産会社は長期的に期待できる取り組みを行っている。ISO9001(品質がいいものにつける認定)を取得。
    • 千葉県にある東京大学と千葉大学の学園都市に、環境に配慮した建築を紹介するモデルルームを作った。
    • ホテル営業が多い不動産会社ゆえ、ホテルの冷蔵庫に省エネ型のものを導入。

  • まとめ:
    • 例えばグッドデザイン賞など「なんとか賞」という、一見よく聞こえるというものが多すぎて実際の価値がよくわからない。また、やたらエコと商品名につける傾向が目立つので、消費者にとってわかりづらいのではないか。
    • 建築物や電車など大きなものを作るうえで、これから必要になってくるのはものを大事に長く使うための長寿命設定だと感じた。


記者感想

講義回数は全部で3回でしたが、すべて密度の濃い授業でした。オイルショックやIT革命、環境サミットなど社会情勢が目まぐるしく変化を遂げてきたここ半世紀を振り返って、それらの出来事がエネルギー業界にも大きな変遷を巻き起こしてきたのだと感じました。また、環境への配慮から電化が進む中で特に大きな役を担っているのは電力会社ですが、従来の電気を滞りなく届けるという責務をおろそかにせず、かつ新しい取り組みに積極的な姿勢を持っている事実を知りました。今回、講義をしてくださった中村先生も、斬新なアイデアを常に大切にし、先見の明がある方だという印象を強く受けました。その挑戦し続ける働き方、生き方はお手本とさせていただきたいと思いました。



文責 / 学生記者 : 岡田 千明



受講者の声

  • 地球温暖化の基礎知識を教えてくれたり、自分がエコだと思っていたことが実は違ったということに気づかされ、勉強になりました。「考え方」を学んだりでき、自分のためになりました。
  • レジュメが丁寧で、とてもわかりやすい講義でした。
  • 日常生活に活用できるエコ行動を学べて自分のためになりました。
  • 何が本当のエコなのか、考えるきっかけになりました。また、先輩ということで、キャリアを考える上でためになりました。
  • 誇りをもって働ける仕事を選ぼうと思いました。
  • 職業の多様性が理解できたので、自分に合った職が絶対あるということがわかりました。