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第35回SDGsセミナー「教育スタートアップによる国際協力の最前線」実施報告

2023年12月11日更新

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「違うことが面白い」世界を作りたい、と語る金さん

11月29日(水曜日)16時40分〜18時10分、第35回持続可能な開発目標(SDGs)セミナーが開かれました。今回のセミナーでは世界中の子どもたちをターゲットとした教育アプリを開発するワンダーファイ株式会社のキム・ソンドンさんを講師にお招きし、「教育スタートアップによる国際協力の最前線」というテーマでお話を伺いました。今回の講演会を通して、キムさん自身のご経験や心境の変化、現在の教育のあり方などさまざまな尺度から国際協力について考えることができたように思います。

キムさんは在日コリアン3世として生まれ、横浜市で育ちました。日本でずっと暮らしているものの小学1年生から高校3年生まで朝鮮学校に通い、高校の修学旅行で韓国と朝鮮の軍事境界線を訪れたことはキムさんにとって非常に大きな経験だった、と語ります。また、朝鮮国内でインフラの整備が行き届いていない地域を訪問した経験から、大学で土木工学を学んだのちに人と関わりつつインフラ整備に従事することができる大手総合商社の丸紅に入社します。
そして丸紅ではバングラデシュでの鉄道の建設、ロシアのシベリア地区に建設を計画するパルプ工場など、政府とも関わる大きな案件に携わりました。その間はバングラデシュやロシア、インドなどの取引先を含め多くの国を訪れたそうです。

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ご自身のライフストーリーを語る金さん

丸紅から転職して現在の会社で働くことを決めた理由の一つが、バングラデシュで起きたテロでした。2016年にバングラデシュの首都ダッカで外国人を標的としたテロが起こり、その地域に一週間前まで出張していたことや仕事を通じて関わっていた人が亡くなったことから修学旅行で訪れた朝鮮半島の軍事境界線を思い出したそうです。その時、「争い」という問題に対して高校生だった自分は何ができるか分からなかったけれど今ならできるかもしれない、何かしなければいけない、と強く感じたと語ります。

キムさんは、争いの原因は主に「価値観の違い」と「自己肯定感の欠如」であると考えています。丸紅時代の鉄道プロジェクトにおいて世界各国の人同士が一つの目的を共有して答えのない課題に取り組み協力する様子をそばで見ていた経験からも、「文化や言語が異なれば価値観に差が生まれるのは当然のことだから、その違いを否定せずに承認し合う必要がある」と感じているそうです。そのような取り組みによって「『違うことが面白い』と思える世界」を作ることができると考えています。

そしてキムさんは、着実な自己肯定感の向上を図るためには教育による長期的なアプローチが大切だ、と主張します。世界各国の教育現場を巡った経験からも、個人の違いを大切にしながら子供達が知的好奇心を持って学び続けることが重要であると考えているそうです。 そしてキムさんの現在関わっているワンダーファイ株式会社では、「世界中の子どもたちが本来持っている“知的なわくわく”を引き出す」ことをミッションに掲げてThink!Think!(シンクシンク)という教育アプリを開発しています。

国際協力事業としてはカンボジアにて、JICAと政府との共同研究を行っています。コロナ禍ではオンライン等の対応をいち早く行い、SNSやテレビで大きな反響を得たり、郊外地域にアプリ利用が拡大したりなどの成果が得られました。また、公益事業だけでなく塾事業にも参画することで運転資金の安定確保を目指し、それによって公教育事業の拡大も視野に入れているようです。

今回の講演を受け、人が行動を起こす最大のきっかけは「実際に経験する」ことなのだと強く感じました。キムさんの修学旅行での経験やバングラデシュでのテロ、そして実際に世界の教育現場に赴いたり個人でVR実験を行ったりという圧倒的な行動力に非常に感銘を受けました。また、「争いは自己肯定感の低さから他者を否定することによって始まる」という視点や「教育は長期的ではあるけれど確実に平和への第一歩になる」というお話も私にとっては新鮮でありながらも納得させられました。自分の経験がどのように未来のキャリアにつながるのかは予測ができないけれど、その時々の気づきを大切に、そして行動に移したいと思った時に躊躇わずに行動できる人間になりたいと強く感じました。この度は貴重なお話をありがとうございました。

(文教育学部人文科学科2年 石川瑞季)

【関連リンク】
右矢印ワンダーファイ株式会社ウェブサイト
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