平成20年度 現代GP講義
キャリアプランニングT(マスコミ:北村節子先生)

北村節子先生

2008年 4月16日(水)、23日(水)、30日(水)の3日間、北村節子先生(読売新聞東京本社 調査研究本部 主任研究員)を講師に迎え、キャリアプランニング I (マスコミ)の講義が行われました。実際に新聞メディアで働いている北村先生から、新聞社で働くということ、新聞の読み方、そして楽しさが伝えられました。
40人の定員に100人以上の学生が集まり、マスコミへの関心の高さが窺えました。その為、2回目の授業で抽選を行いました。

授業1日目 4月16日(水)

北村先生の就職活動

北村先生は1972年にお茶の水女子大学を卒業し、読売新聞社に就職しました。当時どの企業も新卒の募集は少なく、中でも男性社会だった新聞社へは、350倍もの狭き門をくぐり抜けての入社だったそうです。

北村先生はその時の心境を振り返って、こう仰います。

「もうほとんど偶然みたいなものです」

読売新聞社にとって、実に17年振りの女性記者採用でした。

女性が新聞社で働くということ

女性は新聞社でどんな仕事をするのでしょうか。

「新聞社の仕事は、社会正義を掲げている建前上、封建的な男女差がありません。
ですから自分の能力を最大限に生かした仕事をすることができます」 (北村先生)

新聞社の仕事として真っ先にイメージするのが新聞記者です。

「記者は、一般記者(取材業務)、地域選択記者(諸事情により赴任地指定のある記者)、写真記者(カメラマン)、校閲記者(紙面構成や各種事実確認等)に分かれます。その中の校閲記者の所属先に、紙面のレイアウトや見出しをつける編成部(整理部)があります。 編成部の仕事の中で女性に向いていると思われるのが、文字や表記、写真に問題がないか確認をする校閲です。校閲は大変緻密で、大切な仕事。読売新聞でも お茶大の卒業生が2人校閲記者をしています。校閲記者から一般記者になることもあります。
読売新聞は海外支局に62人を出していて、その中で女性は4人プラス1人。プラス1人はバークレー大学の講師として日本のメディアについて教えています」 (北村先生)

女性が活躍できる職業の話に学生は惹き付けられました。
記者職以外にも、会社組織としての経理、総務、広告、販売、事業、技術などの職種があるそうです。

出産と仕事

結婚、出産をしても仕事を続けられるかどうかは、学生にとって気になるところです。 読売新聞社には育児休暇が2年あり、会社を辞めることなく仕事に復帰する女性記者が少なくないそうです。

北村節子先生

「読売新聞の主筆、渡辺恒雄が今年の入社式でこう言いました。

『 いいですか、新人諸君、家庭は良いもんですよ。
家庭を持って子どもを産んだら、会社はできるだけバックアップします 』

会長自ら この様に言う程、女性が仕事と家庭を両立させることを強く応援してくれる社風があります。


「結婚したら、みなさんは堂々と子どもを産みましょう。出産後、復帰した女性記者の実例を見ると、比較的復帰のいい記者は実家の近くに住むか親と同居し、育児 を手伝ってもらっている例が多い。育児は親子二代に渡る事業。 親は、 『 娘は社会正義の為に頑張っている 』 と 応援してくれるものです」 (北村先生)

実家からのバックアップも、長期的戦略として検討する価値がありそうです。仕事を頑張りたい、結婚もしたい、子どもも欲しい と考える学生にとって、心強いお話でした。


新聞の信頼性

インターネットが普及し、多様な情報を誰もが簡単に入手でき、またブログや掲示板などで自由に情報発信できる時代になりました。そんな現代社会の中で、“新聞”の存在価値はなんでしょうか。

「新聞に書かれていることを信用して良いのでしょうか。
新聞社というものは、確かな情報を得た上で信頼性の高い記事 を社会に提供するために、記者の育成や印刷システムの開発、宅配制度の整備など、100年以上にわたって膨大な投資をしてきた。もしも信用を落としたら、 即、これらの投資を失うことになる。失うものの少ないブログなどの情報より真剣勝負にならざるを得ない。その意味で信用度は高いといえます。デスクが原稿 をチェックし、何度も確認をします。校閲の人が一字一句の間違いも見落としません。
そうやって多くの人の叡智を集めてできた記事は信用できる。歴史を積み重ねて築いてきた信用の上に成り立っている“新聞”を、私は信用していいと思っています」 (北村先生)

授業の始めに、 「新聞をとっている人?」 の呼び掛けに手を挙げる人は 2,3人しかいませんでしたが、授業の終わる頃には 殆どの学生が、新聞と新聞社での仕事に興味を持った様子でした。


授業2日目 4月23日(水)

実習

見出しをつけてみよう:1

実践的な職業体験として、実際に新聞記事を読んで見出しを付けるワークをしました。

「例えば、ある事件の判決記事を書いたり見出しを付けたりする為には、事件の概要だけではなく、判決が世間に与える影響を推測すること、社会背景について など、幅広い知識を必要とします。その中でも整理部の人がする「見出し付け」は、限られたスペースと少ない文字数で記事の内容を端的に表すことを要求され る、とても難しい作業です。」 (北村先生)

大手ファーストフードチェーン直営店の店長が、残業代不払いで会社を提訴した 『名ばかり管理職』 事件。この記事に見出しを付ける作業が演習課題として与えられました。労働基準法における残業代の概念や、過労死についての現況などの知識をフル活用しな がら、見出し部分を隠した新聞記事を読み込み、見出しを付けていきました。

学生1   :『 店長にも残業代を 』

北村先生:「組合のキャッチコピーみたいですね。この記事で必要な概念は、裁判記事ということです。 ひと目で裁判とわからないといけません」

学生2   :『 直営店店長残業代不当 』


北村先生:「これも組合の主張とも読めなくもないです。いいところまでいっています。
『 店長の残業代支払い命令 』 が正解です」

見出しをつけてみよう:2

「通常、1面に載る記事は刑事事件や経済・国際関連ですが、何故この残業代不払いの労働問題が1面で取り上げられたのでしょう か。 『 名ばかり店長 』 に該当する人は、このファーストフードチェーンだけで 全国に1700人もいます。この全員に残業代を支払うことになれば、会社の経営に大きな影響が出ることが予想され、さらには、同様の問題が常態化している 他の企業も この裁判の影響を受けることになり戦々恐々とするであろう、と世間の注目が高い判決であることが予想されたからです」 (北村先生)

同じ日の夕刊社会面でも、この問題について取り上げています。

「事実を客観的に書く1面とは異なり、社会面は市民感情を織り交ぜ、記者の主張が反映されています。
記事は、会社を 訴えた原告の勇気を讃え、過労死ぎりぎりまで働いていることに同情的です。そして管理職とは何か、どんな権限があるから管理職といえるのか、その定義は法 的に定められてなく、慣習であることなどが書かれていますね。それではこの社会面の記事にも見出しをつけてみよう。
さあ! 輪転機が回るよ!!」 (北村先生)


学生から出た見出し案は どれも記事の内容を反映したわかり易いものでしたが、実際の紙面を飾った見出しとの比較で、その秀逸さに納得させられ、プロの仕事力に感銘を受けました。
ページごとの記事の特徴、記者の苦労、見出しの意義などを理解し、職業として体感できた授業でした。


実習

授業3日目 4月30日(水)

新聞読み比べ

前回講義にて、読売新聞の他に、朝日、毎日、日経を読み比べ、各紙の視点の違いを考えるという課題が出されていました。
学生からは、

「日経は経済情勢やニュースの背景など 『 ある程度わかっている人 』 が読者対象だと思った」
「憲法改正については新聞によって踏み込み方がぜんぜん違う、ということがわかった」

などの感想が聞かれました。
北村先生は、

「読売新聞は1日に1000万部、朝日は800万部、毎日は400〜500万部 発行しています。
各社部数を伸ばす努力をしていますが、シェアを100%とろうとは思っていません。
新聞ごとの考え方があり、例えば政党支持や批判のニュアンスも各紙異なります。
新聞が1紙になり、ひとつの考え方だけが日本に広まることが良いとは言えません。 危険です。
そこに複数の新聞の存在意義があります。
いくつかの 『 ものさし(物事を評価するときの基準) 』 が存在することが重要なのです」

と解説しました。

くらし・家庭面(旧婦人欄)の時代変遷

次に文化面の企画記事を読みました。

「約50年前頃、くらし・家庭面は政治や経済ニュースに触れることのない女性向けのコーナーでした。
生活に密着した内容なので、女性はここだけを読んでいればいい、女性記者もここだけを書いていればいい。 『 おしゃもじ記事 』 と呼ばれ、やや差別的な側面もありました。 しかし逆に、政治や経済面では取り上げられない重要な話題も ここでは女性記者が自由に書けるので、サンクチュアリ的な面もありました。世論を他の面に先駆けて嗅ぎ取り、社会に大きな影響を与えた記事も少なくありま せん。
現在の くらし・家庭面は女性や家庭の記事だけでなく、社会全般のニーズを把握した企画記事も掲載してます」 (北村先生)

刑事司法の流れ

新聞読み解き自由自在

前回、ある殺害事件の「検挙から死刑判決が下されるまでの裁判の流れを読み取る」という宿題が出されました。

この課題を通じて、事件を市民感情だけで被害者やその家族に対し同情的に捉えるだけではなく、日本の司法システム、検察側の作戦、犯人の弁護団の思惑など、多くの視点を持って記事を読みとることの重要さを学びました。

「逮捕・起訴、拘置・留置など用語の区別はつきますか? これらの用語が正確に理解できていると、刑事事件の記事をより深く読み解くことができます。 ジャーナリストを目指す学生はなおさらきちんと用語を理解する必要がありますね」 (北村先生)

北村節子先生

「多角的にものごとを捉えながら読むと、新聞は推理小説のように面白い。新聞がある限り、私は老後も十分楽く暮らせる自信があります」

と北村先生が断言するほど、“新聞”は奥が深い世界であることがわかった3日間でした。



文責 / 現代GP:阿部純子

受講者の声

  • 実際に新聞の現場で働いておられる方の話は現実味があり、大変さややりがいがリアルに感じられた。 また何となくしかイメージできていなかった「ジャーナリスト」という仕事について頂いた本を読むことで理解できた。自分で実際の新聞の記事に見出しを付ける演習はこれまでにない新しい感覚が必要とされ、楽しかった。
  • この授業を受けて本当によかったと何度も思いました。メディアで働くという厳しさ、それを乗り越えた時の喜びは、実際に働く側になってみないとわ からないものだと思います。先生のおかげでよりリアルな実態を知ることができた事を大変光栄に思います。ありがとうございました。
  • この授業を通して、少し距離があった新聞との距離が小さくなった気がします。なかなか読もうとしても読めなかった新聞に逆に興味がわき、読めるようになりました。それは、新聞を作る過程や新聞記者の実態などを少し知ることが出来たからだと思います。
  • レポートが大変だったが、やっているうちに編集することが楽しく思えてきた。そして、新たな興味を持つきっかけができてよかった。
  • 華やかな仕事だと思っていたマスコミ関係の仕事が、実際はすごく大変な仕事だとわかった。先生の話がとても面白く、発言する場を与えてくれたこともよかった。