平成20年度 現代GP開講講座 サイエンス・ライティング入門 課題エッセイ:Part 1
平成20年後期に開講されている 『サイエンス・ライティング入門』(担当:青山 聖子先生)では、課題として広く公開されることを前提としたエッセイを書いて行く中で、文章力・表現力を研鑽しています。実際の講義やキャリアレポート放送局を通じて講評を行い、完成度を高めた上で、今後も お茶の水女子大学 現代GPサイト上で公開していきます。 今回はその第1回として、『 バイオエタノール 』 をテーマとしたエッセイを掲載いたします。最近よく耳にするキーワードを、すこし立ち止まって考えてみました。 それでは 受講生の作品をお読みください。
平成20年度 サイエンス・ライティング入門課題エッセイ 第1回テーマ
『 バイオエタノール 』 (800字程度)
●コメに託すユメ:原田 朋美( 理学部 化学科 3年 ) ●給食ごみ→バイオエタノール→エコ??:三ツ木 礼子( 理学部 化学科 3年 )
『コメに託すユメ』 原田 朋美 (理学部 化学科 3年)
コメ農家の友人から、野菜のお裾分けを貰ったことがある。野菜も作っているんだと驚いた私に、近頃はコメだけじゃやっていけないから転作をするしかない、と彼女は言った。社会科の授業で習って以来すっかり忘れていた「減反政策」は、決して過去のものではなかったのだ。 そんなことを思い出したのも、あるニュースを耳にしたからだ。私の出身でもある東北地方で、休耕田を利用して育てた多収穫米からバイオエタノールを精製し、田植え機などの燃料にする取り組みが始まったという。休耕田といっても、田を肥やすために休ませているというより、生産に規制があるゆえに「余っている」のが実情だろう。農家を悩ます減反政策は食用米にのみ適用されるので、この場合に生産規制はない。食用米のためにも、田を保全できるのは大きなメリットだ。 ただし肝心の採算の面では、まだ課題も多いようだ。苗のコストや人件費のほか、バイオ燃料を製造するプラントまでの輸送費、プラントを地域に作るとしたらその建設費を見積もると、今のところ外国産のバイオエタノールと勝負できる値段ではないという。 しかし見方を変えれば、この取り組みは、資源が少ない日本という場所で、燃料を含めた「地産地消」を実現できるチャンスだと考えることもできる。エタノール抽出後の搾りかすは、家畜の飼料へ転用できるため畜産農家との連携も図れる。循環型社会に向けた、大きな可能性がそこにある。 昨今の「エコ意識」の高まりは凄まじい。二酸化炭素の排出を削減することは、温暖化をくい止めるための手段というより、もはやそれ自体が目的であるかのように大きな顔をしている。だが実際は、省エネを謳った家電製品に買い換えたり、レジ袋を断ってマイバッグを持参したりと、「こうするのがエコ」という与えられた理想を鵜呑みにしているだけに思える。本来の「エコ」とは、地球環境のために何ができるかを自分の頭で考え、行動することのはずだ。私たちの生活にとって本当に大切なことは何か。自らに、そして地域社会に、問い直す必要はないだろうか。
『給食ごみ→バイオエタノール→エコ??』 三ツ木 礼子 (理学部 化学科 3年)
トウモロコシやサトウキビから作られるというバイオエタノール。実は私たちの日常から発生する生ごみからも生産が可能なのはご存知だろうか。特に都市部では、生ごみが一定して大量に発生することから、バイオ燃料を生産するための資源として注目され始めている。というのも、現在、生ごみのほとんどは焼却によって処理されているのだが、水分を多く含んでいることから本来、消却には不向きとされているからだ。 生ごみは家庭や飲食店からだけでなく、学校という教育現場からも給食の食べ残しという形で生じている。すでに今年の2月から、江東区内の小中学校の給食ごみなどからバイオエノールとバイオガスを精製する実証試験が行われているそうだ。回収されたエタノールは学校教育用などに、バイオガスは発電・ボイラで利用して、施設内の機器の運転やエタノールの蒸留に用いるのだという。また施設そのものも見学可能としている。これは、地域住民の環境への意識を高めたり、環境教育の一環となることを狙ってのことだろう。 確かに、生じてしまった生ごみが埋め立て地や焼却炉に運ばれていくよりは、バイオ燃料として生まれ変わり地域で消費されることの方が、環境にやさしい取り組みなのかもしれない。しかし、思い出してほしい。私たちが子供だったころ、「食べ物を残さない、粗末にしない」と親や学校の先生に言われた経験はないだろうか。ごみが燃料へと生まれ変わるのは、魔法のように魅力的だが、そもそもごみなど、出さないに越したことはないのである。 世の中の風潮にのって、バイオ燃料生産ばかりに目を向けているのでは、せっかくの教育機関での試験も、将来的に見て、良い結果をもたらすかどうか疑問だ。「環境にやさしい」行動とは本当は何なのか一度立ち止まって考えてみる必要がある。それは、私たちが気がつかないだけで、意外に簡単にできることだったりするかもしれない。幼いころ、しつけられたことの中にあるように。
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