現代GPシンポジウム
「キャリア教育の今、そしてこれから…」開催報告

 平成19年度文部科学省現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)の取組の一つとして、2010年2月23日(火)(13:30-17:15)に、本学キャンパス内にて、現代GPシンポジウム「キャリア教育の今、そしてこれから…」を開催した。
 このシンポジウムでは、近年の大学教育改革のキーワードの一つとなっている「キャリア教育」の在り方や、大学が社会から何を求められているか、大学はどのようにそれに応えていくのかということを大きなテーマとして掲げた。羽入佐和子学長及び文部科学省高等教育局専門教育課 課長 澤川和宏氏による挨拶に続いて、本学現代GPの千葉和義 取組責任者が、今回のシンポジウムの趣旨説明と、平成18年度及び平成19年度に「実践的総合キャリア教育の推進」として採択された63大学等の協力により、「現代GPキャリア教育調査」のアンケートを実施した結果を踏まえ、各大学等の同プログラムの特色・機能性をとりまとめた冊子「実践的総合キャリア教育の推進」調査報告書を配布、解説した。


基調講演
  「なぜ、今、キャリア教育なのか。原点に立ち返る」
                            立命館大学 加藤敏明先生

基調講演では、キャリア教育の先進国であるアメリカでの抜本的な教育改革の原点的定義を、豊かな社会の弊害として社会との接面が小さい日本のキャリア教育にどのように位置づけ、展開していくのか?をテーマが講じられた。マーランド(1971)やホイト(1974)が説いたように、全ての教育がキャリア教育に結び付くためには、教員が意識改革し公教育としてキャリア教育に取り組む社会全体的なMovementが不可欠であるのに対し、我が国の教育現場に欠けているのは、キャリア教育を担当する教員への「教育評価」であること、それゆえにキャリア教育の担い手が育たない、という課題提起がなされた。


各大学の学生を交えたGP成果発表

今回のシンポジウムの特色として、「学生を交えたGP成果発表」を実施した。これは、実際に各大学の現代GP取組事例を直接体験している学生の目線から、キャリア教育のニーズや実践例を紹介するという企画である。シンポジストとして、法政大学の笹川孝一先生、一橋大学の山崎秀記先生、筑波大学の五十嵐浩也先生をお招きし、各大学の最新の事例をご紹介頂いた。


世代間のつながり、社会とのつながりに目を開く
                            法政大学 笹川孝一先生

法政大のキャリアデザイン学部では、キャリア発達段階のうち特に「接続」の概念に重視したカリキュラムを展開している。キャリアが多面的・複合的に接続されていることを認識する必要がある。世代の違いや異文化な人々の中で、人にサポートされ、人をサポートする体験を通じて、自分の立ち位置を確かめ、社会的な関係改善を考えるきっかけになれば、社会に出てからも継続的に発展させていける可能性を拓くのではないか、という狙いから、法政大学では、ピアサポートを進めながら、コミュニケーションスキルを培うために「キャリア相談実習事前指導」を必修のカリキュラムに組み込んでいる。
 学生発表では、3年生(男子)が「キャリア相談実習事前指導」を受講して得た体験を発表した。先輩として後輩の相談に乗るための準備や段取り、心づもりという段階を踏んで学べたことが、自分にとって価値があり、また他者への働きかけの経験が、社会に出てからのコミュニケーションスキルとして身についたカリキュラムだった」と振り返った。また、2年生(女子)は、キャリア相談実習で、多国籍メンバーによるフットサルの主催者支援に参加した例をあげ、「異文化に飛び込んでいって自分のポジションを認識し、コミュニケーションに興味を持ったことが、ゼミに入るきっかけとなった」と語った。




同窓会と連携するキャリア教育 〜一橋大学の取組〜
                           一橋大学 山崎秀記先生

一橋大学では、同窓会「如水会」の協力により、卒業生の寄付講義によるキャリア教育コア・プログラムを展開している。各業界のビジネスリーダーとして活躍する諸先輩から人生哲学や職業意識を伝授し、産業界の現状を講義することで、学生の職業観を醸成する。
 その成果として、学生発表では「如水ゼミ」の一つ、「エネルギーゼミ」所属の3年生(男子)は「石油、電力、ガス業界から、いずれも役員レベルの方ばかりが、10名程の密度の濃いゼミをご担当される。僕は経済学専攻なのでマーケティングのこと等は当初はピンとこなかったが、この授業を通じて、マクロな経済学とも意外とリンクしていると実感した。授業のモチベーションも上がった。就活のOB訪問でも、社長ほどの人に会うことはなかなか無いので、とてもよい機会に恵まれた。大変人気の高い授業で、教室があふれて参加できないこともあるほどだが、トップレベルの業界人からキャリアや戦略の話を聞けて非常に勉強になるので、是非これを改善して継続して欲しいと、事務局に掛け合っているところです。」と語った。


筑波大学のキャリア支援
                           筑波大学 五十嵐浩也先生

筑波大学では、それぞれの専門教育を進めている研究者の意識改革をお願いし、全ての教育とキャリア教育の融合を目指している。学校から社会への移行期の最終段階としての、大学生活を有意義に過ごすためのプログラムの一つとして、4年間の学びや気づき、経験の記録を綴じ込むためのキャリアポートフォリオ「CARIO」を全学生に持たせた。日々の情報の集約、目標設定や再検討、振り返りのプロセスが、学生それぞれのキャリア形成への自信を深めることにつながると期待する。
 実際にCARIOの活用事例として、1年生(女子)による「私のCARIO」と題した発表では、「入学当初は重くて大きく、持ち運びも億劫だったCARIOだが、今は面白さに気づき、自由にカスタマイズして楽しんで記録している。今ではメモ帳・日記帳・アルバムがすべてCARIOに詰め込まれていく。CARIOを振り返るのは楽しみでもあり、自分の生き方の変化が定期的に振り返る機会になることはとても大切。こうしてCARIOを書いている時間がすでにキャリアデザインであり、CARIOに書ける体験をしていきたい、またその体験をアクティブにしていくことで、CARIOに記録したくなる、そういう充実した循環が、気づくと形成されている」と、自然な形で学生に浸透している様子が活き活きと伝えられた。




現代GPが育てたお茶大生の力
              お茶の水女子大学 千葉和義 現代GP取組責任者

お茶の水女子大学では、キャリア教育の新たな取組として、キャリアポートフォリオとしての機能をもつ「キャリアレポート放送局システム」と、学生が将来像について語らい、時には就職関連イベントの場としても活用できる「キャリアカフェ」を設置した。まずは、学生の主体性を重視し、企画力を伸ばす「キャリアカフェイベント」の中から、キャリアカフェを共同運営している本学附属図書館の学生サポーター「LiSA (Library Student Assistant)」による発表があった。3年生の発表者は、「国会図書館採用説明会」の企画運営に携わったことを通じて「チーム一人一人の力、講演者やお客様の力が一体になり、一つのイベントを成功させたことが、自分自身にとって計り知れない大きな糧を得たという実感があった」と話した。
 次に、各業界のメンターによる演習授業を通じて学生がその業界を体験し、職業意識の醸成を計る「キャリアプランニング」から、映像コース学生による映像作品が、千葉取組責任者から紹介された。
 最後に、「キャリアレポート放送局」に蓄積した自分自身の歩みや気づきを伸ばしていくために、レポートを表彰して外に向けて発信する企画について説明があり、「サイエンス・ライティング入門」受講者の3年生は、「ただ書くスキルが身についただけではなく、論理的な文章を構成するための情報の取捨選択や言葉の選択など、科学的思考力と表現力が研鑽される密度の濃い授業であった」と報告し、実際に課題として執筆し「優秀レポート作品コーナー」に掲載された科学エッセイを紹介した。


パネルディスカッション 「これからのキャリア教育」

シンポジウム後半では、講演者による「これからのキャリア教育」をテーマとしたパネルディスカッションを行った。参加者から論題が提起されると、それぞれのパネラーから自校の例を基に回答やアドバイスがなされ、会場全体が一体となったディスカッションの場となった。
 パネルディスカッションでは、フロアからの質問を交え、主に3つのテーマで討議が行われた。
 はじめにフロアから出された質問は、「ボランティアやインターンシップは、キャリア教育として認識されているのか」というもの。まず、直接的な回答として、ボランティアやインターンシップとキャリア教育は、元々氏素性の違うものであることが解説された。その上で、概念整理も必要だが、目の前の学生達に役立つものかどうかで判断してもよいのではないか、という意見が出た。また更に、そもそもキャリア教育という言葉を何故使わなくてはならなくなったのだろうか、学問が現実から遊離しているからではないか、という意見から議論が広がった。全てはキャリア教育であるべきであり、「キャリア教育」という言葉をわざわざ使わなくてはならない日本は、諸外国に比べてかなり遅れている状態なのだということも指摘された。
 次に出された質問は、高等専門学校の教員からあがった、「高等専門学校という特化した教育をしているところの学生でさえ、就職するときに自分に何ができるのか、やりたいのか、ということがわかっていない。『就職内定率をあげるためにキャリア教育をやるのではない』と言っても、現実はそうなってしまっている。どうすればよいだろうか。」というもの。
 それに対し、パネリストの教員から「教育内容的に進む道が自明である、当たり前だと思ってしまうからこそ、むしろ考えさせる必要があるのではないか。」という意見が出された。その教員によると、経営学部の学生より文学部の学生の方が余程就職について考えている、とうようなことがあるという。また、自分で考えて自分で動く人間を作るために、やはり教養教育が大事になってくるだろう、という意見も出た。更に、今勉強していることは後々このように役立つかもしれない、ということを言える教員がいないから、社会との接続がわからない学生が増えている、という教員養成面の問題も指摘された。「『好きでも嫌いでもなく、生業としてとにかく就職することが必要なのだ』とそこは緩めずにきちんと指導していかねばならない。」といった厳しい意見もあった。
 ただ、教養教育や教員の指導が大事であることは重々承知だが、企業の人事の方ではどうしてもスキル重視で採用に来るわけであり、もっとスキル面を厚く教育するべきであるという要請もある。その中で生じるジレンマをどう解決すればよいか、という課題については、今後考えていかなければならない課題として残った。
 最後に、現在の大学においては教員に対しての教育評価が欠落しており、それがキャリア教育の振興の妨げになっているのではないか、という意見が出た。パネリストも深く同感している様子で、教員に対する評価基準を体系的に決める必要が出てきている、という意見や、そのためにもまず授業でやっていることを公開し、悩みや喜びを共有すべきでは、という意見も出た。
 フロアからの質問はまさに、現場でキャリア教育について問題を抱えている先生方からの声であり、それを全体で共有し討議できたことは大変有意義であった。また、パネリスト諸氏がそれぞれに着眼点を持ち、異なった観点からの意見が出ることで、より奥行きのあるパネルディスカッションとなった。

 最後に、耳塚寛明教育機構長から、「大学全体としてキャリア教育をどのように進めていくのかについて、今日は非常に学ぶことが多く、本学としても早速来年度から取り入れたい」という挨拶で幕を閉じた。

 当日は遠方からの参加者が多く、夕刻には帰路の都合で途中退出された方もおられたが、大学・企業などから約130名の参加があった。


文責:学生記者 小高 麻里子 / 現代GP 田村 美和




参加者の感想(アンケートから抜粋)

  • 大学における教員の評価に『教育』項目が欠落していることが課題とのコメントに大いに同じ想いをしております。ありがとうございました。

  • キャリア教育とは、少なくとも、中学生くらいから取り入れていく教育ではないだろうか。大学だけで出来る教育ではないように思う。大学だけで教えた場合、どうしても就職に結びついてしまう。人間形成・ものの考え方、社会にうまく溶け込んでいけるかなど考えた場合、幼児教育から必要なような気もする。

  • 学生さんの話がきけて、大学側が実施しているキャリア教育を具体的にどう受けとめ、感じ、活用しているかがわかって参考になりました。各講演も具体的事例の紹介があり、わかりやすかったです。楽しいシンポジウムでした。ありがとうございました。

  • 学生の発表はキャリア支援の具体としてよいと思った。ただ、若干、学生の発表の位置づけや関連についての説明が不足しているとの印象を受けた報告もみられたように感じられた。