お茶の水女子大学
お茶の水女子大学-乳幼児教育を基軸とした生涯学習モデルの構築<ECCELL>

事業概要

アウトライン

事業名 特別経費事業「乳幼児教育を基軸とした生涯学習モデルの構築」
キーワード 乳幼児教育、保育リカレント講座(社会人プログラム)、社会人、学部・大学院、附属幼稚園・附属ナーサリー、戦略的保育人材の育成、循環的生涯学習モデル
概要 現職保育者および乳幼児教育に関心を持つ社会人等の学び直しの場として「保育リカレント講座」を開設し、学部・大学院および附属幼稚園・附属ナーサリーとの連携を図りつつ、多様な戦略的保育人材の育成を複合的に実現する循環的な生涯学習モデルを構築する。
事業実施主体 お茶の水女子大学生活科学部、大学院人間文化創成科学研究科、附属幼稚園、いずみナーサリー
事業計画期間 平成22年度〜平成27年度(6ヶ年)
学内の位置づけ 特別経費(プロジェクト分【新規事業】)〈幅広い職業人の養成や教養教育機能の充実〉分野

本事業の必要性

◆目的・目標

  現職保育者をはじめ、乳幼児教育に関心を持つ社会人・家庭人の学び直しの場として「保育リカレント講座」を開設する。そこでは、社会人のみならず学部・大学院および附属幼稚園・附属ナーサリー等既存の学内リソースとの有機的連携を図り、日本の新しい子育て支援ニーズに応える最先端の知見に学びながら、より探究的な新しい保育者養成カリキュラムへとつながる研究・教育プログラムを企画実施する。そして、保育専門領域のみならず、幅広い職業領域や地域等において、多様で戦略的な保育実践・子育て支援策を構想し実現できる人材の育成=社会還元をめざす。同時に、現職者の職業観の再育成を見通しつつ、学部・大学院生の確実な職業観・実践力の養成を実現できるような学内循環型の学び合いシステムを確立し、前者の大学−社会間のリカレント教育システムと併せ複合的循環的な生涯学習モデルを構築し探求する。


◆必要性・緊急性

  1990年代から少子化対策や子育て支援策が次々と打ち出されているが、合計特殊出生率は依然として低水準である。その背景には、家庭に孤立し適切な支援を受けにくい女性の問題、職場における男女雇用機会の実質的不平等など、養育者が子育てをする上での困難がいまだに解消されていない実態がある。さらに、専門的な現職保育者にも、保護者対応、発達障害児保育の方策、幼保小の連携等の問題等十分対応する体制ができておらず、平成20年3月改訂の幼稚園教育要領・保育所保育指針において専門性のあり方、現職者研修等の課題などについての現職研修の必要性が強調されている。
  本事業は、従来別々の養成プログラムとして認知されてきた、いわゆる‘pre-service training’(まだ教職についていない人を対象とする養成)と‘in-service training’(オン・ジョブ トレーニング)の教育を統合し、各々の特質を発揮しながら相互に学び合う学習モデルを開発しようとするものである。保育者の専門性の裾野を広げ、保育を学ぶ学部・大学院生と現職・離職保育者および社会・家庭人とが協働して、自らの子ども理解力と子育て環境構築力の向上を図り、多様な場において戦略的に力を発揮できる保育者・子育て支援者のモデル形成を使命とし、少子化対策を草の根において実効化させる人材養成をめざす。



◆独創性・新規性等

  保育者・子育てサポーター養成を目的とした社会人リカレント講座は他大学にも例を見るが、本事業のリカレント講座では、既成の資格取得に目的を限定せず、多様なタイプの子育て支援人材の開発を目指し、社会人受講生が学部・大学院というリソースと有機的に連携し、リカレント学習の一環として複数の研究プロジェクトに関わる機会を保障する。これは、授業や演習を通してだけでなく、乳幼児教育現場に即したテーマの調査研究に自ら取り組み、客観的な洞察力と有効な対策を提案する実践力を養成するものである。少人数ゼミ形式での討論、研究指導も行う。
  従来の幼稚園教諭教職課程や保育士養成課程において、たとえば、園経営論や保育政策論、職場関係論等に関する知見が活用されることは少ない。これは、‘pre-service training’が、保育者養成の一般的な基本コンセプトであるからである。保育リカレント教育と学部教育が共同することによって、保育者養成教育内容の保障が可能であり、また授業のあり方も必然的に双方向的、多方向的となり、教授方法の改革効果も生み出す。


◆お茶の水女子大学第2期中期目標及び中期計画との関連性

  第2期中期目標として、「社会人教育の推進、特に社会人女性の勉学再開とその成果の社会還元を支援する」を掲げ、それに対応する中期計画として、「教員養成・乳幼児教育など本学の伝統を活かし、生涯を見通した教育システムを構築する」を策定している。また、「大学・大学院と附属学校との密接な連携を通じて一貫した教育理念を構築し、キャンパス全体として、生涯にわたる女性の発達と活躍を支援する」を目標として掲げ、「生涯にわたる学びを保障する観点から、大学とそれにつながる初等・中等教育との連携を強化することを目指し、大学と附属学校との一貫した教育体制を整備する」も、計画として策定している。
  本事業のリカレント講座は、前項の「社会人教育の推進」を遂行するとともに、学部・大学院生と保育者である社会人の協働によって、生涯を見通した教育システムの構築を実現するものである。大学における子育て・保育に関するリソースが協働し、乳幼児教育をキーコンセプトに、卒業して職業についたり家庭に入ったりなど多様なキャリアコースをたどる女性がいつでも学び直すことのできる体制を準備し、大学を開かれた場にすることに貢献できるだろう。


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本事業の展望

  本事業は、学部教育における乳幼児教育(Early Childhood Care and Education)リソースの研究部門と、生涯学習(Lifelong Learning)の一形態である社会人(リカレント)プログラム部門とを連携させ、「お茶大ECCELLプロジェクト」として充実発展させる。つまり、乳幼児教育に関する学内教育と、社会人を対象としたリカレント教育を有機的に連動させ、学部・大学院生には、保育・子育て現場での活動を通じた実践的研究と職業観の獲得の促進、社会人には現代の乳幼児教育・保育研究の学び直しの場の提供を行うとともに、両者の協同による乳幼児教育・保育研究を推進する。活動を通じて得られた知見は、教育テキストや教育カリキュラムの新規策定などの成果として社会に発信してゆく。


◆年度別実施計画

平成22年度
 「保育リカレント講座」を発足、運営体制を整える。通常の授業のほか、集中講義を開講する。保護者のエンパワーメント論、乳幼児教育教材論等、保育と脳科学、発達障害保育論など大学カリキュラムでは十分にカバーできない領域課題を取り上げ、受講生の関心や体験に根ざした交流型の実践的授業カリキュラムを試行する。3月にプログラム修了の認定証授与。学部生には8単位まで単位認定(生活科学部)。
 学部・大学院、附属幼稚園・附属ナーサリーとリカレント講座の連絡会議を結成し、授業やインターンシップ等における連携教育の具体的な方法、体制を検討実施する。 (18年度から始まった、附属幼稚園・附属ナーサリー、外部教育施設等の保育現場との協働的な専門授業「発達臨床基礎論U・基礎演習U」、「保育臨床実習」、「発達臨床特別実習U」の企画・運営は継続して行う。)

大学院教員と社会人講座教員と協力して、現場の先端的問題点を探る複数のプロジェクト研究を立ち上げ、院生、講座生を含めたチームを結成し、研究の準備段階に入る。

学部・大学院生と保育リカレント講座受講生との交流学習の方法を探り、試行する。
 リカレント学生の学びの自己評価について調査する方法を検討する。

海外の大学における社会人と大学および乳幼児教育現場との協働について調査を行う。国内の保育者養成、子育て支援施設等の視察、学会への参加を行う。
平成23年度
  リカレント保育・乳幼児教育生涯学習プラン(社会人・学部生向けのプログラム)をお茶大独自のECCELLが生涯循環的に学習し続けられる環境モデルであることをアピールしながら、保育者・現職者養成カリキュラム改革を進める。そのために必要な、評価に関する研究のために、質問紙調査を行い、また国内外の社会人プログラムとの比較研究を行う。また22年度に施行された交流学習を実施する。具体的には、ゼミ形式で社会人受講生と学部・大学院生がともに参加できる「現代保育課題研究」を開講し、社会人受講生が保育現場で抱える課題について、協同学習・研究を行う。

  附属園と大学の共同教育研究を紹介するDVD(1)を試験的に作成(23年度は、附属いずみナーサリーにおける本学学生のインターンシップの記録を予定)し、研究会や授業等で使い検討する。23年度の成果として、プロフェッショナルな保育者養成と、教養教育としての保育者育成との総合化イメージを可視化する紙媒体のテキストを作る。

  本事業と類似したプログラムを長年展開している、英国King’s College of Londonの「Child Studies」の見学・交流を初めとする諸外国(韓国、ドイツ、フィンランド等)の教育研究視察により、保育者養成システムの日本的特質を明らかにするとともに、日本の保育者養成体制の質的向上に向けた提言を行いたい。

  さらに、既存のリカレント講座の内容を、大学内だけではなく、札幌、熊本などの地方で公開講座という形で発信してゆく。
平成24年度
  社会人プログラム、学部における授業改革は、シラバス上にある大学の基盤的教育活動として実施していることは変わらない。さらに、24年度はリカレントプログラム評価に関する調査の分析結果をまとめて、学会等で発表を行う。同時に、新しい評価方法を具体化し、受講生対象の調査に活用する。学会や大学において、リカレントプログラムに関する公開シンポジウムを開き、モノグラフを発行するとともに22年度より継続して、日本各地で公開講座を開設し、これまでに本事業で得られた、知見を発信してゆく。

  23年度までの視察や交流で明らかになった知見をもとに、欧米やアジアにおける保育者養成課程と比較しながら、本学の学部・大学院・社会人と一貫した「保育者養成」のコンセプト、方法について冊子を作成し、研究誌等においても発表を行う。

  大学と現場の協働した保育者養成方法のDVD(2)を作成する。他大学と連携して「保育者の専門性」に関するセミナーを開催する。本プロジェクトの中間報告書を作成する。
平成25年度以降
  中間報告書で課題とビジョンを明らかにしながら、本プロジェクトの後半期に向けて、学部カリキュラム、リカレントプログラムの基本的な見直しを図る。「ECCELL生涯学習プログラム」の意義を根本的に問いなおし、就学前教育における「保育」と「教育」の統合的コンセプト、それにともなう保育者の専門性開拓の新しい課題、学童期における「保育」と「教育」の問題に向けて、さまざまなメディア(雑誌、ホームページ、著書、研究発表、セミナー、シンポジウム等)を通して社会への発信を試みる。


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事業達成による波及効果(学問的効果、社会的効果、改善効果等)

  専門職と非専門職の複合的保育者養成方法の実施は、学術的にはほとんど未開拓の研究分野であるが、女性および社会人の「子どもと共生する形での持続的なライフスタイル」を追求するためのジョブ・カード的な民間ライセンスにつながるものとなろう。幅広い職場・家庭的環境に対応する子育て支援推進者の専門性を探求することによって、ジェンダー研究、生活社会科学等の、学内の隣接研究リソースとの連携へと進展する可能性をもつ。保育リカレント講座(社会人プログラム)と大学・保育現場との共同的保育実践研究プログラムとして予定されている研究は、主題的にも方法的にも、乳幼児・初等教育界おける喫緊課題である。また、保育リカレント講座から多様なパターンの子育てサポーターを世の中に輩出することで、一般企業やNPO等において実効性のある子育て支援策を発揮できるための人材モデルを提示することができ、男女雇用機会均等社会を実体化する上で貢献することとなろう。



特別経費の事業として実施する理由及び事業計画期間終了後の取り組みの予定

  本事業は、大学として組織的に取り組む教育研究の第二次重点推進事業(第二期中期目標・中期計画に根拠を有する)であり、かつ、既存の学内資源のみではその十全な展開と効果を期待し得ない規模のものである。既存の学内資源としては、大学・大学院における「保育・児童学」研究リソース、附属学校(小学校、幼稚園、ナーサリー)があり、18年度から特別経費を得て「保育・児童学」系カリキュラムの改革と担当講師採用による教育研究の充実を図ってきた。17年度からは外部資金による社会人プログラム(夜間講座)を開設し、おそらく内外でもほとんど例を見ない生涯学習モデル(社会人中心の授業を学部生も履修できる形)を築いてきた。また、附属幼稚園とナーサリーが同一キャンパス内にあることから、学生・職員・研究者を問わず、0歳〜老年世代までが直接行き交い交流する場が多様に生成されており、専門領域を超えて異世代が脱カリキュラム的にも「共生」を自覚できるような大学像を育ててきた。附属2園が、教職科目・インターンシップ授業・ボランティア等で、学生が保育を実践的に学ぶフィールドとなっていることは言うまでもない。また大学と附属幼稚園は、1901(明治34)年以来、月刊誌『幼児の教育』(フレーベル館)を1世紀以上にわたって発刊してきた。本プロジェクトはその企画・内容面で助言を行っている。同誌は本学の保育・幼児教育研究公表の場としても重要な意義をもつため、全国への発信媒体として継続させるための支援を行う。
  こうした基盤の上で、社会人プログラムのお茶大型生涯学習モデルへの発展的展開、乳幼児教育を基軸とした大学コミュニティ的事業の構想展開を進めていく必要がある。文科省による「大学・専修学校等における再チャレンジ支援推進プラン」の中の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」は、特定の職場・職種へのチャレンジ、レベルアップに目的を限定しているため、本学のめざす事業とは性格が異なる。
  以上の理由により、本プロジェクトは特別経費の事業として実施することになった。なお、事業計画期間終了後は、より持続的な大学の財源により、当該リカレント講座を継続して運営していきたい。社会人との共同学習・研究、インターンシップ教育等を組織化した大学院カリキュラムの改革を図る可能性もある。



平成22年度年次報告書 目次紹介

はじめに

第一部 事業の概要

第1章 本事業(ECCELL)の概要
1.本事業のアウトライン
2.本事業の必要性
3.本事業の展望
4.事業達成による波及効果(学問的効果、社会的効果、改善効果等)
5.特別経費の事業として実施する理由及び事業計画期間終了後の取り組みの予定

第2章 本事業(ECCELL)初年度の実績と課題
1.初年度の当初計画と実績
2.運営会議の開催


第二部 事業内容の報告

【 活動報告T 乳幼児教育部門 】
― 大学コミュニティのひろがりにある保育実践と学生の学びをつなぐ ―

第1章 〈つながる・ひろがる〉子どもプロジェクトの今後に向けて

第2章 子どもプロジェクトの活動の展開
1.つながりの場の拡充
2.授業改革の取り組み
3.自主ゼミの継続とその深化
4.フィンランド保育施設の訪問報告
5.“ぷらっと子どもサロン”の試み
6.『幼児の教育』誌の企画


【 活動報告U 生涯学習部門 】
― お茶の水女子大学における「現職保育者の学び直し」をめぐる活動 ―

第1章「はじめに」に代えて:現職保育者の「資質向上」と学び直し
1.現職保育者の学び直し第1ステージ:
  特設講座「チャイルド ケア アンド エデュケーション」の開講
2.現職保育者の学び直し第2ステージ:
  ECCELL社会人プログラムの開設

第2章 社会人プログラムの運営
1.今日の保育者の状況
2.保育業務の専門性の絞り込みの困難さ
3.夜間授業の運営

第3章 社会人プログラムの展開
1.社会人プログラムの意義 ― 受講生の感想から
2.「土曜保育フォーラム」の開催
3.「地域連携開催 保育フォーラム」― 社会人講座の地域への提供


【 活動報告V 二部門合同の取り組み 】

第1章 お茶の水女子大学ECCELL公開シンポジウム
1.シンポジウム記録
2.申込状況およびアンケート結果


関連資料
ECCELL会議一覧
ECCELLメンバー


おわりに



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