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2023年5月8日更新
2023年4月25日、株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング主席コンサルタントの太田美穂さんをお招きし、第27回持続可能な開発目標(SDGs)セミナー「モザンビーク国新しい学校教育制度に対応したカリキュラム普及プロジェクト ―JICAによる開発途上国の現場での具体的な取り組み―」を開催いたしました。太田さんは、本学家政学部児童学科を卒業後、民間企業、JICA海外開発青年、米国デューク大学大学院国際開発政策プログラム修了を経て、JICA専門家となられました。その後、ボリビア、ホンジュラスなど、世界各国のJICA教育分野プロジェクト、調査研究に従事され、現在は開発コンサルティング企業の立場から、モザンビーク初等教育技術協力プロジェクトに業務主任者として従事されています。今回は太田さんが現在従事されている「モザンビーク国新しい学校教育制度に対応したカリキュラム普及プロジェクト」(略称PRICEP)について、詳しくご講演いただきました。
モザンビーク国はアフリカ大陸の南東に位置する国で、日本の約2倍の国土を持ちます。1人あたりの国民総所得は480米ドル(2019年)と、日本の100分の1ほどです。また、初等教育純就学率は89.1%、中等教育純就学率は18.6%に留まっています(2015年)。日本はモザンビークに対する開発協力方針の重点分野として、経済成長、平和構築などとともに「人間開発・社会開発」そして「教育の質の改善」を掲げています。
太田さんが従事されているプロジェクト「PRICEP」は、JICAの「教科書や教材を開発し、学びを改善」するという協力方針、そして「学びの改善のための総合的なアプローチ」を軸に、初等教育の算数と理科の学びを改善することが目標とされています。JICAの「学びの改善のための総合的なアプローチ」とは、カリキュラム、教科書・学習教材、授業、学力評価(アセスメント)に一貫性を持たせ、「学びのサイクル」を強化するアプローチのことです。また、PRICEPには「算数・理科の学びが改善される」というプロジェクト目標の上に、上位目標、さらにはスーパーゴールというものが設けられており、学びの改善を通して、最終的には児童の学力向上が目指されています。
概要だけを聞くと、プロジェクトの実行は思ったよりも容易に感じられるかもしれません。しかし、現場に関わられている太田さんだからこそ知り得る数々の難しさ、一筋縄ではいかない現実が、ご講演の中でとても印象に残りました。まず、教科書・教材改訂の開始にあたり、著作権の都合から3,4年生の教科書という、中途半端な学年から改訂を始めなければならなかったことに難しさがあったそうです。また、理科に関して、日本の「実験や観察を基本とする理科」が何年かかっても理解してもらえない、と仰っていました。そもそも、教員自身が教科書の内容についてあまり理解していないと思われることもあるそうです。さらに、日本の2倍の国土がありながら、インフラの未発達などでICTの活用が難しいモザンビークにおいて、全国の学校の教員向けの研修がとても大変であることも知りました。そのほか、プロジェクトには期限があること、教科書・教材の印刷をインドで行うため入稿時期が使用開始よりもかなり早いことも、難しい点だと感じました。同時に、このような難しさがありつつも、決して日本のやり方を押し付けようとせず、相手国の意見や状況を汲みとりながら合意を重視してプロジェクトを進めている点に感銘を受けました。
これまで、国際協力プロジェクトの詳しい取り組みについてあまり理解していませんでしたが、今回太田さんのお話を聞いて、様々な困難を乗り越えながら、相手国とまさに「協力」してプロジェクトを進めていることが分かりました。出来上がったモザンビークの教科書の一部を拝見しましたが、確かに以前までの課題点が改善されていて、プロジェクトに携わっている方々の努力の結晶のように感じられました。より多くの子どもたちに、より良い教育を届けようと奮闘している人たちがいることを実感し、自分も自分ができる形でこうした取り組みに協力できたら、と思いました。
(文教育学部人間社会科学科4年 平井 理子)