ページの本文です。
2023年9月27日更新
2023年9月11日から20日にかけて、2023年度「国際共生社会論実習」・「国際共生社会論フィールド実習」のブータン現地調査(スタディツアー)を実施しました。
現地調査前には、6月初めころから、ブータンの歴史や現状を調べたり、JICAブータン事務所駐在の須藤さんのご講演をお聞きしたりして、ブータンへの見聞を深め、ひとりひとりが研究課題を設定しました。参加者6名はそれぞれ、「ブータンから学ぶエコツーリズム形成に必要な観点」、「ブータンの人々が抱く理想はGNH政策によって達成できるか」、「グローバル化による農業の変化に伴う文化・生活の変化」、「ブータンにおける開発はどのような“豊かさ”をもたらしたのか」、「ジェンダーギャップに対する法・政策の実態と市民の認識(変化)」、「ブータンにおける高等教育の“出口”」をテーマに掲げ、それぞれインタビュー項目を作成し、訪問先を検討しました。
現地調査中は、首都のティンプーに3泊、ポブジカでホームステイとして2泊、空港のある都市パロで2泊滞在しました。ティンプーでは、JICAブータン事務所、ブータン日本語学校、王立自然保護協会(Royal Society for Protection of Nature : RSPN)、ブータン女性起業家協会(Bhutan Association of Women Entrepreneurs : BAOWE)を訪問しました。その合間には、ブッダポイントやメモリアル・チョルテン、タシチョ・ゾンなどに赴き、ブータンの文化や仏教への信仰心を体感し、一般の方々へのインタビューも実施しました。ポブジカでは、RSPNオグロヅルエデュケーションセンターを訪問し、ポプジカで奨励されているエコツーリズムやホームステイプロジェクトについて調査しました。さらにホームステイ先の家族の農作業を手伝ったり、ガンテ・ゴンパというお寺までネーチャー・トレイルをしたりして、ブータンの農業や仏教の文化、そして自然環境について学びました。パロでは、ポブジカよりも開発の進む環境で生活している農家のお宅でドツォ(石焼き風呂)を体験し、王立ブータン大学パロ教育カレッジを訪問し、18~20歳の若者に対してインタビューを行いました。これらの活動の移動中や休憩先で出会った一般の方へのインタビューや雑談の中でも各自の研究課題に関わる質問をしつつ、ブータン人の愛国心やアイデンティティ、国王への忠誠心、仏教への熱心な信仰心について学ぶことができました。
ブータンは「幸せな国」と呼ばれることがありますが、実際に訪問して幸せとは何かをもう一度考え直す必要があるように感じました。伝統的なブータンの生活様式において人々は生きていくために農業を行い、家事や薪ストーブのための木材採集を男女で役割分担して、仏教の教えに従って、欲深くなることもなく慎ましく生きていました。また、公用語のゾンカ語には幸せを指す言葉がなかったため、国王がGNH(国民総幸福)というブータン独自の尺度で開発を進めることを国民に説明する際、「ガトト・キトト」(心身が充たされた状態)という言葉を多用したといいます。この言葉は、最高の状態というよりも、十分な状態という意味合いであるようにも見受けられます。実際にインタビュー協力者の多くは、健康であることが幸福であると答えていました。それに対して、日本人の私たちにとって幸福とは何でしょうか。学歴や就職先や経済的余裕ばかりに囚われてしまいますが、ブータンの人々が重視する心身の健康や家族の存在は我々日本人にとっての幸福とも無縁ではないと思います。ブータンは確かに世界的に見て経済的に豊かな国ではありませんが、男女平等の価値観や平和的思考、ホスピタリティについては他国と比べても秀でているようにも感じました。そして、人の豊かさとは何か、幸福とは何か、それを改めて考えさせられました。ブータンへ行ったことが私の大学生活、ひいては今後の人生においてターニングポイントと呼べるだけの貴重な経験になったと思います。
(文教育学部言語文化学科3年 阿部綾舞)