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第37回SDGsセミナー「研究者から起業家へ-起業を通じて大学の智を活かしたソーシャルインパクトを生み出す」実施報告

2024年3月1日更新

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講師の中原拓さん

2024年2月28日、メタジェンセラピューティクス株式会社代表取締役社長CEO中原拓さんをお招きし、第37回持続可能な開発目標(SDGs)セミナー「研究者から起業家へ-起業を通じて大学の智を活かしたソーシャルインパクトを生み出す」が開催されました(お茶の水女子大学構内セミナー室・オンラインのハイブリット開催) 。

講師の中原さんは、バイオインフォマティクス研究者としてのキャリアを開始された後、ご自身が関わる研究で創業され、2020年に現在のメタジェンセラピューティクス社(バイオベンチャー)を創業、CEOとしてご活躍です。セミナーでは、女性リーダー育成の観点から、研究を生かした起業に関する実例や、SDGsの観点から、大学の智を活かした医療・創薬ベンチャーでソーシャルインパクトを生み出すことについてお話いただきました。

セミナーの冒頭、中原さんからは、現在お住まいの北海道東川町の美しい写真とともに、ご自身の大学でのバイオインフォマティクス研究、米国でのMBA取得、スタートアップ起業、日本企業での新規事業担当、ベンチャーキャピタリストなど、幅広いキャリアのご紹介がありました。そして、ご自身がCEOを務めるメタジェンセラピューティクス社について、その主要メンバー(経営、メディカル、基礎研究それぞれの領域でトップレベルの実績をお持ちのメンバーが集まっていること)や、サイエンス・ビジネス両面での実績のご説明をされました。さらに、メタジェンセラピューティクス社が取り組まれている事業の1つ、腸内細菌叢移植(FMT)の社会実装について触れられました。

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メタジェンセラピューティクス社の目指す
ソーシャルインパクトを説明する中原さん

腸内細菌叢移植(FMT)とは、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を、潰瘍性大腸炎(指定難病、患者さんは国内20万人以上と言われています)などの疾患を持つ患者さんの腸に大腸内視鏡を用いて移植し、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)を改善することにより、疾患の治療を試みる医療技術です。メタジェンセラピューティクス社は、FMTの社会実装には、腸内細菌叢を必要とする患者さんと腸内細菌叢を提供するドナーをつなぐ「腸内細菌叢バンク」の構築が不可欠として、順天堂大学との連携により「腸内細菌叢バンク」の構築を進め、FMTに用いる便の収集および腸内細菌叢溶液の調製を支援しています。同社は、「腸内細菌叢バンク」を通じて、健常な人と患者さんとの架け橋となり、「腸内健康シェア社会」の実現というソーシャルインパクトを生み出すことを目指しています。

中原さんは、金銭的なリターンとともに社会的・環境的なインパクトを生み出す「インパクト投資」に日本政府・投資家が力を入れ、高い関心を寄せている現状について触れられ、メタジェンセラピューティクス社のようなバイオベンチャーは、ソーシャルインパクト、すなわちSDGsが掲げるゴールでは3(すべての人に健康と福祉を)や9(産業と技術革新の基盤をつくろう)と必ず紐付いている、と強調されました(同社は、2020年の創業以来、4年間で約20億円をベンチャーキャピタル(VC)から調達されています)。

講義の後半では、スタートアップ・ベンチャーについて、そもそもの定義や最近のトレンドに関するわかりやすいご説明がありました。中原さんは、スタートアップ・ベンチャーの事業資金はどこから提供されるのか、提供されるには何が必要なのか、バイオベンチャーと大手の製薬会社とを比較した優位性などについて触れられた後、これからのバイオベンチャーは、「イノベーションの最先端」として、優秀な人材が集まり、政府・大手企業からの期待がますます大きくなるだろう、と述べられました。

最後に、女性とスタートアップの関係について、女性創業のスタートアップが男性創業よりも資金調達額が少ない現状がある一方で、企業のジェンダー・国籍の多様性と財務パフォーマンスには高い相関関係があることを示され、多様性の低いスタートアップの文化(の現状)は、ビジネス面で大きな損失を出している可能性がある、との考察を述べられました。そして、残念ながらメタジェンセラピューティクス社も様々な要因から男性中心の経営陣となっており、次のフェーズに向け、ジェンダーバランスを回復していきたい、優秀な女性リーダーに仲間に加わってもらうため、皆さんにもアドバイスをいただきたい、とお話を締めくくられました。

質疑応答では、「バイオベンチャーが男性中心になりがちなのは、日本独特の傾向なのか、それとも欧州など男女平等が進んだ社会では現状は違うのか」といった質問があり、「正確な統計は手元にないが、バイオベンチャーの分野では日本のみならず男性が多い印象がある、理系人材に全体的に女性が少ない、というところから来ているのではないか」とのご説明がありました。また、中原さんは、ご自身のキャリアを例に、「起業する前にVCに身を置き、投資家の立場で様々なスタートアップ・ベンチャーを見たことが、自身の起業にとても役に立った、起業前にVCを経験することはお薦め」とコメントされていました。

「あなたの腸内細菌は、文化・社会・歴史の総決算だ」「健康で丁寧な生活の顕れとしての腸内細菌が、腸内細菌によって傷つけられた人たちを救うことが出来るかもしれない」「あなたの健康が、だれかの苦しみを救うことに貢献できる」といったメタジェンセラピューティクス社のソーシャルインパクトステートメントは、世界で疾病に苦しむ患者さんにイノベーティブな治療を届ける、という同社の姿勢をよく表しており、まさにSDGsゴール3、9に貢献する取り組みである、と強く印象づけられたセミナーでした。

お茶の水女子大学グローバル協力センターでは、2024年度もSDGsの諸課題に取り組む専門家の方々を講師にお招きし、SDGsセミナーを開催予定です。学生の皆さんがご関心を持つテーマや、今後のキャリアを考える際の参考となる内容も取り上げていきますので、是非ご参加下さい。

【関連リンク】
右矢印メタジェンセラビューティクス社ウェブサイト
右矢印腸内細菌叢移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)について

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