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2024年5月10日更新
5月8日(水曜日)16時40分〜18時10分、お茶の水女子大学の国際交流留学生プラザ2階の多目的ホールにて、第39回持続可能な開発目標(SDGs)セミナーが開かれました。今回のセミナーでは、日本を代表する住宅設備メーカー株式会社LIXILのSATO事業部から下條彰仁さんを講師にお招きし、「トイレを通じて1億人の衛生環境の改善を目指す~SATOが取り組むグローバルな衛生課題の解決」というテーマでお話を伺いました。今回の講演会を通して、下條さん自身のご経験やLIXILの取り組みから保健衛生の重要性を考え直すことができたように思います。
LIXILはその存在意義として「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」を掲げ、キッチンやお風呂、水栓、窓などの商材を中心に、国内外で多彩なブランドを展開する大手住宅設備メーカーです。そんなLIXILは、SDGsに関する取り組みにも力を入れています。その代表的な例が、「SATO」です。「SATO」とは、開発途上国向けに開発された簡易式トイレシステムのことです。「SATO」は、低価格で節水や衛生面の配慮が叶えられるだけではなく、コンパクトな設計で取り付けも簡単な製品で、特に安全で衛生的なトイレが不足するアジアやアフリカの農村部などでの利用を想定して、開発されました。「SATO」事業はバングラデシュから始まり、各地の文化や生活様式に対応できるよう製品展開を拡充しながら、今では世界中で45ヶ国、約750万台が出荷され、4,500万人の衛生課題を改善しています。
現状世界には、安全に管理・整備されたトイレを利用できない人が35億人、屋外で排泄をしている人が4.1億人、自宅で手洗い設備を利用できない人が20億人、不衛生な水と劣悪な衛生環境が起因する疾患で命を落とす5歳未満の子どもが1日当たり1000人いると言われています。生活環境にトイレがあっても管理が行き届いておらず、悪臭や病原菌を媒介する虫が蔓延していたり、トイレが使える状態ではないために道端の草むらなどで用を足したりするという事例は依然として多くあります。特に学校のトイレなどがこのような状態だと、衛生環境が原因でトイレに行きたくても行けずに子どもが病気になったり、トイレという場面においてプライバシーが守られていないことで女性が性被害に遭ったりと、衛生環境の未整備は様々な問題を引き起こします。
下條さんも実際にフィリピンを訪問したときに、目の前で幼い女の子が野外排便をしているところを目撃したと言います。下條さんが訪問したフィリピンは、国民の平均年齢が24歳と若く人口が多い国です。下條さんは、そのような人口が多く子どもの割合が高い国の衛生環境を整備することができれば、人々の寿命が延び、それに伴い国家としてのさらなる発展も望めるのではないかと、改めてSATO事業の意義、そして世界の衛生環境の底上げの重要性を認識したと語ります。
しかし、同時に下條さんは現地でSATO製品を売ることの難しさを教えてくれました。現地の方々にとっては、野外排泄が日常的でトイレで用を足すという習慣がありません。そのため、SATO製品の魅力を伝えることに苦労するそうです。確かに、私たち日本人にとってはトイレといえば建物に備え付けられている大きな水洗設備を思い浮かべるため、安価で簡単に備え付けられるSATOの魅力を理解することは容易なことです。しかし、現地の方にとってのトイレは私たちが思い浮かべるものとは大きく異なる上に、保健衛生の重要性の理解度も浅いため、SATOの特長を魅力と捉えることは難しいでしょう。そのためSATOを開発途上国で普及させるためにはまず、根本的に保健衛生に関する正しい知識を教育するところから始めなければならないと言います。しかし最近では国際機関や政府機関との協力で、住民たちに対する教育活動に力を入れており、少しずつ住民の理解も進んでいると言います。
下條さんは最後に、価値観の違いを超えてSATOの魅力を伝えることは大きな苦労が伴うが、その魅力が伝わり実際に設置が叶ったときの達成感は何にもかえられないと語ってくれました。私も実際にフィリピンの田舎町でホームステイをした経験があり、その際に向こうのトイレなど水回りの環境の劣悪さに衝撃を受けました。しかし、それ以上に彼らがその環境に何の疑問も持っていないことにさらに驚かされたのを覚えています。保健衛生に対する価値観の違いはどうすれば埋まるのだろうと疑問に思っていたところ、今回の講演を受けて、教育面から地道にアプローチすることの重要性を認識することができました。根本的に価値観を変える取り組みは非常に時間がかかる上に困難も多いとは思いますが、様々なアクターを巻き込んで人々の生活を改善するために奮闘する日本人がいるということに非常にワクワク感を覚えました。私も将来、SATO事業のような野心的な事業に関わりたいと強く思いました。この度はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
(文教育学部言語文化学科3年 北澤希帆)
【関連リンク】
(株)LIXIL・SATO関連サイトグローバルな衛生課題の解決