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【開催報告】第50回SDGsセミナー「カンボジアの幼児教育を考える」(2025年6月17日)

2025年7月16日更新

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講師の石塚さん

2025年6月17日(火曜日)、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 国内事業課 課長である石塚咲さんをお招きし、第50回持続可能な開発目標(SDGs)セミナー「カンボジアの幼児教育を考える」が開催されました。
講演では石塚さんのキャリアやカンボジアの教育課題、シャンティ国際ボランティア会のカンボジアでの活動についてお話を伺いました。

「行き当たりばったり」が生み出す唯一無二のキャリア
特に印象的だったのは、石塚さんがご自身のキャリアを「行き当たりばったりのキャリア」と表現されたことです。大学でのカンボジアとの出会いから青年海外協力隊での経験、そして民間企業を経てシャンティ国際ボランティア会へ。国際協力に最初から明確な目標があったわけではなく、漠然と「海外に関わりたい」という思いから始まったという言葉に、共感を覚えるとともに、その柔軟な姿勢が多様な経験を積み重ね、今の石塚さんを形成しているのだと感じました。計画通りではないからこそ得られる学びや出会いがある、という示唆に富んだお話でした。

本が紡ぐ「心の逃げ場」と「信頼」
講演の中で、シャンティ国際ボランティア会が本の読み聞かせを大切にしている理由として、「お話を聞いている間は、厳しい現実世界を忘れてその世界を楽しむことができる」「信頼関係を築くことができる」という話がありました。生活が困難な状況で、教育がどう役立つのかという問いに対し、食料や経済、衛生面の安定はもちろん重要ですが、一見優先順位が低そうに見える「本」を通して、心の安らぎや逃げ場を提供し、人との間に信頼関係を築くことこそが、精神的な「救い」となるのだと気付かされました。物質的な支援だけでなく、心の豊かさもまた、生きる上で不可欠な要素なのだと改めて認識させられました。

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会場の様子

教育の課題
カンボジアが目覚ましい経済成長を遂げている一方で、依然として貧困問題が根深く残っているという現状があります。高層ビルが立ち並び、日本の大手企業が進出する首都プノンペンの発展の裏で、多くの人々が不安定な生活を送っているという事実は、持続可能な発展の難しさを物語っています。そして、教育が抱える課題もまた深刻です。ポル・ポト政権後の急ごしらえの校舎の老朽化、就学率の向上にも関わらず、留年や退学の多さ、そして圧倒的な授業時間の不足。特に、午前の部と午後の部に分かれて1日の授業時間がわずか4時間という状況は、限られた時間で十分な教育を受けさせることの困難さを浮き彫りにしています。

「遊び」がもたらす学びの変革
そのような困難な状況の中、シャンティ国際ボランティア会が推進する「遊びや環境を通した学び」の取り組みは、子どものための教育へ教育を前進させています。従来のまるで「学校」のような幼児教育ではなく、子どもたちが主体となり、廃材でおもちゃを作ったり、自然の中で五感を使い学んだりする姿は、まさに理想の教育現場です。

当初は保護者の方々が「遊びより勉強」を求める傾向にあったという話も印象的でした。しかし、プロジェクトを通じて「遊びを通じた学びの重要性」が理解されていったという成果は、地道な努力と対話が実を結んだ証だと思います。日本人とカンボジア人の「遊び」に対する認識の違いなど、課題は残るものの、石塚さんが「段階的に変わっていくものとして長期的な視点で考えている」と語られたことに、その活動の持続性と力強さを感じました。

最後に石塚さんの「先生が生き生きしていると子どもたちは楽しいし、子どもたちが楽しいと先生の負担も減る」という言葉は、カンボジアでも日本でも変わらない教育の本質を捉えていると感じました。子どもたちが笑顔で学べる環境を作り出すことが、教員のモチベーションを高め、ひいては教育全体の質を高める。このシンプルな真理を、私も先入観なく大切にしていきたいと強く思いました。今回のセミナーは、カンボジアの教育の現状を知るだけでなく、教育の持つ普遍的な価値や、国際協力のあり方について深く考えるきっかけを与えてくれました。

(文教育学部人間社会科学科4年 松尾ひなの)

【関連リンク】
シャンティ国際ボランティア会
公益社団法人シャンティ国際ボランティア会の草の根技術協力事業(2024年4月完了)について

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