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【開催報告】「国際協力の現場を知る」連続セミナー:「グローバルヘルスと日本~パンデミックの脅威に世界と日本はどう立ち向かったか」(2025年11月20日)

2025年12月2日更新

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講師の瀧澤さん

2025年11月20日、独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)にて長きにわたり国際協力に携わってこられた瀧澤郁雄さんをお招きし、「グローバルヘルスと日本」をテーマとしたセミナーが開催されました。

大学ご卒業後JICAに入られた瀧澤さんは、留学のご経験なども経てフィリピンで4年間、ケニアで2年間という長期にわたる現場での経験をはじめ、お仕事を通じてこれまで約60ヵ国もの国々を訪問された経験があります。セミナーではこうした豊富なご経験を背景に、世界の保健医療の動向から、未曽有の危機であったパンデミックへのJICAの対応、そして国際協力の意義に至るまで多岐にわたるお話を伺うことができました。

セミナーの冒頭では、世界的に深刻化する非感染性疾患NCDs(Non-Communicable Diseases)について触れられました。2025年の国連ハイレベル会合でも議論されたように、現在途上国においてもNCDsによる死亡原因が感染症から母子疾患を上回る大きな要因になっています。背景には、かつての低栄養の問題から、食生活の変化による過栄養の問題や、たばこ、お酒、加糖飲料の消費習慣が挙げられます。これに対し、国際的な政治の場で市場規制をかけようとする動きがある一方で、アメリカやアルゼンチンなどの反対により国連ハイレベル会合の政治宣言が満場一致での合意に至らないなど、「政治と市場の力が健康増進を阻む要因となることがある」という、国際的な政策決定の難しさが示されました。

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質疑応答の様子

瀧澤さんは、日本のリソースをいかに世界に役立てるかという点に重きを置いて活動されてきた経験から、日本の保健医療分野の優れた点を挙げられました。日本の乳幼児死亡率は世界最低水準であり、母子保健分野の知見は世界に貢献できるものです。またNCDsによる死亡率や過体重の割合も最低レベルにあり、パンデミック対応においても65歳以上の人口割合が29.3%と高いにもかかわらず、死亡率の上昇を最低水準に抑え込んだ点が高く評価されました。

しかし一方で、「日本は健康ユートピアではない」というのが現実です。自己評価による健康度はOECD加盟国で最低であり、高齢者人口が多いということだけでは説明しきれない、精神的・社会的な健康面(特に高い自殺率)における課題が日本には存在するということでした。

セミナーの後半では、新型コロナウイルス感染症に対しJICAがいかに対応したかをご説明いただきました。JICAの技術協力は人を派遣することで成り立っていますが、PHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)宣言や移動制限により、JICA史上初となるレベル数の関係者の一時帰国が実施されたというのには大変驚きました。3月には6200人いた現地滞在者が6月末には500人まで減少したという事実から、危機対応の厳しさを感じます。

こうした状況下で国内支援が優先されるべきではないかという世論への配慮がありながらも、なぜ国際協力を続ける必要があったのかという疑問に対しては、国際協力が単なるgive and takeではなく、信頼関係があるからこその助け合いであることを東日本大震災での経験などを挙げてご紹介くださり、コロナ禍のようなどの国も危機に直面している状況での協力のあり方を改めて考える機会となりました。

今回のセミナーを通じて、国際協力の現場が直面する政治的・経済的な課題や、日本の保健医療が持つ世界的な強みと、国内の精神的・社会的な課題という二面性を深く理解することができました。特に、パンデミックというグローバルな危機に直面した際の国際協力の意義について、支援者側のある種余裕のある立場からの協力というこれまでのイメージを乗り越え、信頼関係に基づく相互扶助という視点を持つことの重要性を強く感じました。セミナーを締めくくられた「共に未来を創れるかが試されている」というメッセージを受け、私もグローバルな視点を自国のあり方への深い洞察をもって、今後の学びと行動に活かしていきたいと思います。

(生活科学部2年 佐藤佳世)

【関連リンク】
JICAグローバル・アジェンダ>保健医療

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