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【開催報告】第57回SDGsセミナー「「生きる力」を育む母子手帳:誰一人 取り残さない母子保健協力の実践」(2026年5月28日)

2026年6月5日更新

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講師の萩原さん

2026年5月28日、お茶の水女子大学国際交流留学生プラザにて、第57回SDGsセミナーが開催されました。今回は、独立行政法人国際協力機構(JICA)国際協力専門員(保健)であり、本学OGの萩原明子さんを講師にお招きし、母子保健協力の最前線についてご講演いただきました。

講演では、世界に先駆け日本で普及した「母子健康手帳」が途上国や紛争地域の母子に与える「生きる力」と、その普及活動がもたらす社会的な影響について語られました。萩原さんの国際協力における中心的な活動は、世界諸国において母子が基本的な保健医療サービスを受けられるよう、施設や機材の整備、人材育成、制度改革などとともに母子手帳を広め、母子手帳を定着させることです。彼女は1998年からJICAの専門家として、また2008年からは国際協力専門員として、スリランカ、ヨルダン、パレスチナ、ガーナなど、長きにわたり世界各地の現場を奔走し、母子手帳の普及に尽力してきました。文化や識字率が異なる現地での普及にあたっては、誰もが直感的に理解しやすいようにイラストを増やして簡単な言葉を用いたり、スマートフォンで利用できるアプリ版を開発したりと、時代や地域のニーズに寄り添った柔軟な工夫が凝らされました。パレスチナのような紛争地域など、社会情勢により毎回同じ病院にかかることが困難な環境において、この母子手帳の普及は極めて重要な意味を持ちます。お母さんの手元に一冊の確かな記録があることで、異なる病院を受診せざるを得ない場合でも、初めて診る医師が過去の健康状態や予防接種の履歴を正確に把握し、安心して適切な治療を行うことができるようになります。パレスチナでは母子手帳は「生命(いのち)のパスポート」としての役割を果たしていると萩原さんは強調しました。

そして萩原さんが特に力を込めて語られたのが、母子手帳が「医療と家庭を繋ぐ懸け橋」となり、ひいては「女性自身の意思決定を強力に後押しする」という点です。萩原さんは、子どもの命と健康を守るためには「適切な医療サービスの利用」と「家庭での正しいケア」の二つが両輪として欠かせないと強調していました。いくら病院で元気に赤ちゃんを出産できても、家庭に戻った後に「へそに炭を塗る」「蜂蜜を与える」といった古い迷信に基づいた誤ったケアが行われれば、赤ちゃんの命は危険にさらされてしまいます。そのため、医師、助産師、看護師などが質の高い保健医療サービスを提供するだけでなく、サービスを受ける側の女性や家族、地域社会に対する教育も等しく重要となります。しかし途上国においては、女性自身に意思決定権が与えられていないケースが少なくありません。女性が自ら「病院に行きたい」「安全な環境で出産したい」と望んでも夫に反対されたり、義理の母親から「私たちもみんな家で産んできたのだから、家で産むのが普通だ」と一蹴されてしまったりする現状があります。

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会場の様子

そのような環境下において、受診の目安や命に関わる重要な知識が客観的に記された母子手帳は、女性にとって強い味方となります。手帳を通じて正しい情報が伝わることで、女性自身が受診のタイミングを判断できるようになり、「手帳にこう書いてあるから病院に行きましょう」「お義母さん、これはいけないと書いてあるのでやめてください」と、周囲に対して自信を持って交渉することができるようになります。パレスチナの母子手帳にお父さんを登場させて男性の育児参加を促した事例とともに、正しい情報によって女性をエンパワーメントし、古い慣習から母子の命を守る選択肢を自ら掴み取れるようにすることこそが、諸国で母子手帳を広める真の意義であると語られました。

これまで母子手帳を単なる母子の健康記録が載っているノートとして捉えていたので、病院外である家庭での育児にも関わっていることや、女性の自己決定権を後押しすること、男性の育児参加も促せることなど、安全・健康に出産できるにとどまらないSDGsの他の目標にも関連した可能性に気がつくことができました。母子保健協力の無限の可能性と「誰一人取り残さない」社会の実現に向けた支援のあり方を深く考える大変貴重な機会となりました。

(理学部物理学科 受講生)

【関連リンク】
母子手帳|事業について-JICA

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