平成19年度第14回図書・情報チーム研修会
「書店に学ぶ魅力的な図書の並べ方」

紀伊國屋書店 山村弓子さん

2008年3月27日 木曜日、附属図書館1階 キャリアカフェにて、平成19年度第14回図書・情報チーム研修会「書店に学ぶ魅力的な図書の並べ方」が開かれました。
講師は株式会社 紀伊國屋書店 新宿本店の 山村弓子さん。参加者は図書・情報チームスタッフ、LiSA (Library Student Assistant)の 皆さん。大学附属図書館として、学生にもっと本を手に取る機会を持ってもらいたい。その為には何ができるのか。そのヒントを探ることが、今回の講習目的で す。図書館員と書店員。本を扱う点こそ同じですが、販売の現場で用いられる より効果的な手法を学ぶ時間となりました。

本棚は生きもの

本の分類に、日本十進分類法 (国立国会図書館サイトへ) というものがあり、継続的な体系性を重んじる図書館の書棚は、これを用いて主題体系的に分類されています。対して書店では、世の趨勢で変化するジャンルや 出版点数に合わせ、限られた売り場の中で、より効率よく販売しなければなりません。その為に、本は必ずしも体系的に分類されるわけではなく、客の購買意欲 を刺激する様に工夫を凝らした 流動的な陳列がなされています。

魅せる陳列

店内の限られたスペースで、何を、何冊、何処に、どの様に展示するか。放っておいても売れる本がある中、配置す る場所次第で動きが数倍違ってくる本があります。客層に合った陳列方法や分野を見極めれば、売れる本を作ることもできますが、見誤れば売り逃す本が出る可 能性も出てきます。如何に客の目にとまり、手にとってもらえるか。その工夫が魅せる本の並べ方に生かされています。

POP

語りかけるPOP作り

目を惹く為に用いられる手法のひとつに、POPの設置があります。

POPは客の目を惹きやすく、商品の内容や存在をアピールする効果が得られます。関連書籍でPOPデザインの統 一を図ったり、手書きの文字で親密さを演出したりと、書店員に代わって客へ提案するツールです。その内容を書くにあたっての情報としては、書店員が実際に 読んだものから、序文やあとがきに目を通して類推するというもの、出版社が作成して持ち込んでくるものまで多種多様です。あまりに専門的で内容がよく理解 できない商品であっても、書店員としての感覚や経験から 『 これはいけそうだ 』 と感じると、出版社からその本の内容や売りを聞き出したりしてPOPを作成することもあるそうです。POPの有りと無しとでは、手に取ってもらえる回数に 確実な差があると感じるとのことでした

企画力で集客を図る ― ブックフェア

山村さんの担当するフロアでは、様々なブックフェアが開催されています。(参考:紀伊國屋書店 新宿本店フェア情報) フェアの内容は 通常一ヶ月から一ヶ月半くらいの間隔で入れ替わります。これは、『この書店はいつ行っても楽しいな』と思って貰える店頭にしていきたい、という思いからだ そうです。 フェアの企画に際しては、通常業務の間に進めていく都合上、企画から書籍の手配まで含め、最短でも一ヶ月くらいの準備期間が掛かるとのこと。開催するフェ ア分野の棚担当者が企画し選書したリストを叩き台に、書店のみんなの意見を参考にして削ったり増やしたりしたものが最終的なラインナップとして出来上がり ます。また、出版社の持ち込み企画や時事問題等でフェアを展開することも多々ある様です。

フェア以外での通常の棚作りにおいても、学問系統や時代順、あるいは作者の五十音順で並べるなど、分野ごとに 客がどういう陳列方法だと探し易いかに重きを置いて分類しているそうです。場合によってはシリーズものをばらしたりと、あえて体系的な分類から外し、置け ば買いそうな客がいる他分野の棚に並べることもあるそうです。こういったフレキシブルな陳列方法をとる事を、山村さんは「本棚は生きもの」と表わしていま す。日々入れ替わる販売の現場ならではの言葉が印象的でした。

後半の質疑では、POPの素材や仕入れ先等の具体的な質問が盛んにされました。中でも書店員がどの様にして本の配置の把握をしているのかという疑問については、普段の棚がどう作られているのか、その一端を垣間見る機会にもなりました。


Q:書店員になると、自分の得意分野の担当を任せてもらえるのですか?

A:書店員には自分の担当する棚があります。紀伊國屋書店では正社員として入社後、学生時代の専攻には ほとんど関係なく配属されます。専門外分野の棚担当になった場合は、その分野の本を購入して勉強したり、前任者から棚の性質を聞いたり、その分野に強い出 版社の営業さんなどに話を聞いたりすることで、だんだんと情報を増やしていきます。棚を持っている人が一番『これがいい』とわかっているので、棚ごとの POPやフェアも担当者の裁量に任せられています。担当する分野は何年か毎に替わるので、長く勤める書店員であれは複数の棚を渡り歩き、基本的な品揃えは 把握して、担当フロア以外での不意な問い合わせにも対処することができる優秀な書店員になります。


Q:客の目に新しさを感じさせる本棚作りには、どの様な事に気を遣いますか?

A:フェア以外でも、新刊が出たり、情勢によって売れる本が変わってくる為に、新聞やテレビの書評、雑誌の連載状況、出版社からの情報、ライバル書店の状態など、常にアンテナを張って情報収集をし、レイアウト変更や仕入れの検討をしています。

Q:店内すべての本棚の中身を 全ての店員が把握するのは大変ですか?

A:店員間で共有するノートを作り、客らから問い合わせのあった内容や その時々のトピックを書き込み、最新の情報の共有を図ることで、個々の書店員の知識やスキルの底上げを図ったりもしています。

普段、当たり前の様に書店で見かける本棚には、本を扱うプロとしての視点があるのだと改めて意識させられる一時間でした。