平成20年度 現代GP講義
キャリアプランニングT(行政:塩満典子先生)

2008年6月11日(水)、お茶の水女子大学教授・学長特別補佐である 塩満典子先生に「科学技術・男女共同参画行政」(国家公務員の事例)について講義していただきました。

塩満先生は、東京大学理学部生物学科3年在学中に国家公務員試験の受験準備を始め、翌年に合格。大学卒業後、科学技術庁に入庁しました(現在は省庁改編により文部省と統合、文部科学省となっています)。その後人事院制度でアメリカ留学、文部科学省宇宙政策課 調査国際室長、奈良先端科学技術大学院大学教授、内閣府 男女共同参画局参事官、調査課長などを経て、現在文部科学省より出向されてお茶の水女子大学学長特別補佐を務めています。

文部科学省(以下文科省)ではどんな仕事をするのでしょうか。先生が携わった男女共同参画とはどんな内容でしょうか。公務員を目指す学生にとって興味深い講義をしていただきました。

科学の世界の男女共同参画

「天然資源の少ない日本は、『知恵』で生きていくことが求められています。なかでも、科学技術による『イノベーション(新しい価値の創造)』は重要です。そして、人口減少が予想される日本においては、女性の社会参画なしに科学技術の発展はありえません。
 実力のある女性が社会的性別(ジェンダー)で不利になることのないよう、多様性(Diversity)を認めた社会を作っていく必要があります。そのために、政府は男女共同参画社会の形成のための推進政策を打ち出しました。 私は、女性の教員・研究者が結婚、出産しても研究を続けられる環境を整えることに力を注いでいます」


塩満先生は、内閣府男女共同参画局在任中から科学技術分野における女性の活躍促進に尽力。男女共同参画基本計画(第2次)と第3期科学技術基本計画の中に女性研究者採用の数値目標を明記し、科学技術振興調整費の新規事業として女性研究者支援モデル育成などが予算化されることに尽力しました。この基本計画は平成17年度に「閣議決定」され、18年度以降の政策に結びつき、大きな成果を上げています。

第3期科学技術基本計画

日本は少子高齢化や産業競争力の相対的低下といった課題も抱えています。国土が狭く、資源に乏しい日本が経済大国としての地位を保ち、国民が健康で豊かに、そして安全に暮らせるようにするためには、科学技術を推進していくことが重要です。科学技術創造立国の実現のため、平成7年に『科学技術基本法』が制定されました。この法律は、長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行するためのものです。この基本法の下で、これまで第1期(平成8〜12年度)、第2期(平成13〜17年度)、第3期(平成18〜22年度)の基本計画を策定しました。現在の第3期基本計画案の作成に、男女共同参画の観点から塩満先生も関わっています。

第3期期間中の、経済や生活の向上のための長期の戦略指針は、安倍政権(当時)の『イノベーション25』(閣議決定)にまとめられています。日本社会の成長に貢献するイノベーション、社会的価値の創造に向け、医薬、工学、情報技術などの分野ごとに、2025年までを視野に入れた政策です。これにおいて科学技術の革新も期待されています。

第3期科学技術基本計画のポイントの一つは、女性の研究者のための政策が大幅に拡充され、予算的な根拠が示されたことです。今までゼロだったところに、およそ6億7000万円が計上されました。これは塩満先生がかねてから必要と考えていた政策で、多くの方々の尽力により実現されました。
主に以下を達成することを目的としています。

  • 競争的研究資金の受給において、出産・育児などに伴う一定期間の中断や期間延長など、女性研究者の活動に配慮した措置の拡大。
  • 大学等における次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画に、両立支援を規定。環境整備や意識改革を含めた取組。国はモデルとなる取組を支援。
  • 女子の科学技術分野への興味・関心の喚起・向上に資する取り組みの強化、ロールモデル情報の提供など。
  • 大学等において女性研究者の積極的な採用・登用の促進。各組織ごとに女性採用の数値目標の設定、達成状況の公開など、自然科学系全体としての採用目標25%を期待。

政策とは

「このように基本計画などの政策を作ることは、国家公務員のやりがいのある大きな仕事です。文科省では科学技術・教育・文化・スポーツの水準向上のための政策が立案され、実行されています。
世の中をよくしたい、という思いを具現化できるのが公務員の仕事です。政策を作り、その政策が社会の中で実現されることにより社会貢献ができます」

クイック演習

「みなさんが国家公務員になったらどのような政策を立てたいですか。
日本は女性研究者の割合が少なく、女子が理工系を進路として選ぶことを躊躇する傾向にあります。理工系に進む女性が増加し、それに伴い女性研究者も増えるようにするためにはどのような政策が必要でしょうか。あなたが国家公務員だと仮定して、どの府省でどんな政策を立案するか考えてみましょう」


塩満先生 :「みなさん理系の人が多いのかな。理系の強みを生かした政策が立てられますね。さあ、どうでしょう!」
 学 生 :「私が厚労省の役人だったら、研究職の女性のために研究室に保育施設を作りたいです。そのための補助金を出そうと思います」
塩満先生 :「厚労省、もしくは、大学自身、文科省、経産省などが作ることになるでしょうね。実際に最近、保育施設ができた大学もあります」
 学 生 :「私が文科省の国家公務員だったら、理科に興味を持つように女子高生の理科教育に予算をつけたいです」
塩満先生 :「重要な視点ですね。イギリスや韓国では女性研究者が理系科目を教え、実験に参加することを奨励しています。ロールモデルといって、女性の先輩が理系分野で活躍する姿を見えやすくするため、女性研究者を活用する政策がとられています。女子だけを対象にした実験教室も行われています。日本でも文科省が女子中高生の理系進路選択支援のための政策を進めています」
 学 生 :「女性研究者の多いところに人件費を補助します。そして育児休暇を取りやすい環境を作りたいです。経産省が管轄でしょうか」
塩満先生 :「女性ならではの目の付けどころですね。このように女性だからこそ提案できる政策というものがあります。人口の半分は女性です。その女性が過ごしやすい世の中にするには、女性の視点や意見を反映した政策が不可欠です。政策・方針決定の過程の場により多くの女性が参画することによって、さまざまな人の立場や背景を考慮した政策が作れ、実施が可能となります。政府でも、今年の4月に、公務員も含む『女性の参画加速プログラム』が策定されましたが、とても重要なことです。みなさんも、国家公務員を目指し、社会貢献をして世の中をよりよくしてください」

文部科学省で働くこと

「みなさんもぜひ文科省で働いてみませんか。やりがいがあり、能力を発揮できるすばらしい職場です。

他の省庁に比べて文部科学省は女性の管理職は多いです。たとえば財務省は0.3%ですが、まだ少ないとはいえ、文科省は10倍以上4.6%です。私が入庁した当時は女性の先輩がいなかったのですが、今はおおむね各部署に女性がいて、メンターとして相談にのってくれるので働きやすいでしょう。文科省には育児休業をとって現場復帰した、頼もしいお茶大OGもいます

現在、仕事と家庭の両立ができるようにワークバランスを整えているところです。女性がどんどん職場にはいってこられるように、働きやすい勤務体制やサポートを目指しています。

学生から活発な意見が出され、授業後も先生に質問をする学生が絶えませんでした。国家公務員の仕事、政策を作ることに学生の興味・関心を触発した実り多い授業でした。


文責 / 現代GP:阿部純子

受講者の声

  • 公務員を視野に入れているので、身近に先輩がいることを知れたのは良かったです。
  • 文科省では色々なことをやっている中でのほんの一部だが、知る機会になった。
  • 学内に文科省から来ている方がいらっしゃるというのは、公務員を目指す学生にとって心強いと思った。