平成20年度 現代GP講義
キャリアプランニングII(マスコミコース:北村節子先生)

2008年10月8日(水)から4ヶ月間にわたり、北村節子先生(元読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員)を講師に迎え、キャリアプランニングUの講義が行われました。本講義では、読売新聞社各部の現役記者の方をゲストスピーカーとしてお招きし、具体的なお仕事の内容や新聞の意義、課題など幅広いお話をして頂いたり、意見を交わしたりしました。


10月8日 「現代社会」における自分の立ち位置を認識する

第1目のこの日は、2種類の時事問題テスト(小学生向け、中学生以上向け)が行われました。政治、経済、社会保障、国際問題等 多岐にわたる内容に、学生皆さんは四苦八苦。「問題文自体理解できないものもあった」と不安の表情を浮かべていました。

その後、先生からは、

  1. 見えないことを数値化して認識する
  2. キーパーソンと思われる人を中心に国際情勢を理解する

等、新聞を読む際のポイントが解説されました。また、「高齢化社会」に焦点を当て、今から生涯設計をすることの必要性が強調されました。

「1日の中でも世の中の流れは大きい。その中で、今日本で求められていることを見極めるためにも、新聞を、活字を読もう。今何に投資をするかで将来が変わる」

という北村先生の言葉に、学生の皆さんも大きく頷いていました。



10月15日 「新聞の在り方を考える―裁判員制度を事例に―」

2009年5月から施行される裁判員制度。一般人が司法に介入するという新しい時代に向け、新聞報道にも変化が表れ始めています。

読売新聞では、「司法新時代」と表して、死刑に関する連載記事を掲載しています。知られざる真実の数々に読者からの反響も様々で、北村先生自身も驚きの連続だったそうです。

「現実を知ることが国民に求められている。そのためにも、新聞を読むことがさらに重要になってくる。新聞報道が裁判員制度の流れを決めると言っても過言ではないだろう」

と、今後新聞社、読者ともに新聞のあり方を見直すことの重要性をお話されました。

「新聞記者生活」

「新聞記者はどのように取材をしているのか」、誰もが一度は疑問に思うことだと思います。
新聞記者の入社してからの流れは、

入社

研修

地方支局

本社 各部に分かれる

キャップ・デスク、または地方支局、子会社、関連会社等へ

管理職へ(40代半ば〜後半)

といったように、様々な場所、役職で経験を積みながら知識や人脈を形成していきます。新聞記者にとって「人脈は命」。一つの説を導き出すためには、それに多くの事実に基づく裏づけが必要です。そのために、新聞記者はとにかく現場に足を運び、多くの肉声に耳を傾けます。「夜討ち朝駆け」(朝、または夜中に予告なしに取材先に出向くこと)新聞記者の誰もが経験すること。一日中現場に張り付いていることも珍しくありません。新聞記者にとって人脈こそが宝物なのです。


10月22日 「事件・司法記事を書く」 編集局社会部 小林篤子記者

この日は、社会部の小林篤子記者ゲストスピーカーとして講義をして下さいました。
小林さんは入社後、甲府支局に配属されました。そこでは、当時 日本全土を震撼させた「オウム事件」を担当されました。24時間体制で張り込み、情報収集に走り回る日々は、自分が思い描いていた新聞記者生活とは程遠かったそうです。その後社会部に配属となり、現在事件・司法記事を書いていらっしゃいます。「現場の臨場感を記事に出す」には、経験の積み重ねによってしか成し遂げられないとお話されていました。

「ニュースソースを守る」

講義の中で小林記者は、「情報源を守る」ことの重要性を強調されていました。

「『裁判になるということは99.8%有罪である』、という前提のもと記事を書いていた。警察・検察への絶大な信頼から、無罪推定の配慮が欠如していた」

裁判員制度の施行に向け、国民が偏見を持った状態で裁判に臨むことがないように、情報の質を高める = ニュースソースを守る ことが、情報提供者、そして読者からの信頼に繋がるとおっしゃっていました。



11月5日 企画記事を書く 編集局文化部 松本由佳記者

この日は、文化部の松本由佳記者がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。
松本記者は、お茶の水女子大学を卒業後、読売新聞の校閲部に校閲記者として入社しました。

「色々なジャンルで活躍する人間の活動が詰まっていて、生命力がある。記事を読んで、自分も頑張ろうと思える」

そんな新聞に魅力を感じ、入社を希望されたそうです。その後 取材部の記者に転向し、地方支局を経て文化部に配属されました。2008年4月まで、連載記事「教育ルネサンス」を担当されていました。

「発見し、謎を解く」

文化部の記者として、最初にされることが「ネタさがし」。「面白い」「感動する」というように、まず自分が感じることを大切にされているそうです。その後、そのネタを企画提案し、取材を始めます。取材の仕方は「謎解きと同じだ」と松本記者は言います。最終的に記事にすることを常に頭に置き、「何で?どうして?」と納得がゆくまで取材します。そうして書かれた記事は、世間で新たな発見となります。文化が価値ある商品となるのです。



11月12日 校閲・編成記者の仕事 編集局編成部 首藤由佳子記者

この日は、編成部の首藤由佳子記者がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。
首藤記者は、松本記者と同じくお茶の水女子大学の卒業生です。編成部の記者は転勤がほとんどなく、取材を行うこともありません。スケジュールを組みやすいという利点もあり、最近は女性も増えてきたそうです。しかし、夜勤の日は「午後16時出社、午前4時帰宅」という日もあり、体力的にはハードな部です。

「物事の価値付けを見せる」

編成の醍醐味は

  1. 適切なニュースの価値判断をする
  2. 非常に短い言葉で事実とインパクトを伝える
  3. 端正で正しい日本語を用いる

ことにあります。「紙面は生き物」という首藤記者の言葉にもあるように、次々に入ってくるニュースに対応するためには、スピードが要となります。どの情報を、どの位置に、どれくらいの大きさで載せるか。協議を重ね、特殊なパソコンソフトでレイアウトを組み、見出しをつけます。文字数、言葉の正確性、ニュアンス、そういった細かな点一つ一つが検討され、やっと紙面が出来上がります。編成部の記者は決して表にでることはありませんが、新聞の価値を左右する非常に重要な部署なのです。特に最近、ネットでニュースが流れるようになりましたが、それらはあくまで「並列」。記事のバリューを紙面に反映させるという作業はニュースのバリューを客観的に位置づけるという新聞ならではの作業です。



11月19日 元厚生次官連続殺傷事件

同日発生した元厚生次官連続殺傷事件をもとに、当時その事件の背景と考えられた年金制度、官庁の組織構成などについて学びました。
この事件やその5ヶ月前に発生した秋葉原での無差別殺人事件報道を通じ、北村先生は

  • メディアが報道することで、読者の意気をあおり、事件の意味をテロリズム化させる危険性
  • 政府が動いた場合「人を殺せば変えられる」というカスタムが生じる危険性

の二つを主張されました。
また、事件を報道する上で写真や実名を掲載する必要性があるのかどうか検討しました。



11月26日 医療報道のあり方 編集局医療情報部 田中秀一次長

この日は、医療情報部の田中秀一次長がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。
田中次長は、1986年に長野県諏訪市の諏訪マタニティークリニックが国内で初めて多胎児減数手術を行ったことをスクープされた方です。医療情報部はできて間もない部ですが、医療に関する提言を6ページにわたり行う等、その充実した内容には専門家からも一目置かれています。今回は、生殖医療を中心にお話して頂きました。

医療報道は人間の生き方を左右する

高齢化が進む中、日本人の健康に対する関心が非常に高くなっています。世界一の長寿国であり、不健康期間は男性で5〜6年、女性で9年という短い期間にも関わらず、なぜこれほどまでに健康への不安感が高いのか?それは、健康診断の普及や消費生活の向上が大きく影響していると指摘されました。

「医療は本当に役立っているのか?」

田中次長からの投げかけに、生徒の皆さんは沈黙しました。医療行為は人体に侵略を加える行為であり、事実 プラスの効果があるものはわずか11%足らずです。しかし、医療情報は新技術や新治療に焦点が置かれがちで、こういった事実は報道されにくいそうです。

「読者の認識を把握し、事実をどのように扱うか。それによって読者の心の動き、人間の生き方が大きく変わる」

田中次長の熱のこもった言葉に、学生の皆さんも表情を引き締めていました。



12月3日 「広告の仕事」 広告局広告第一部第三課 松下道子主任

この日は、広告局の松下道子主任がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。
新聞社にとって、広告局は、新聞販売局と並ぶ収入の要の組織です。広告局は、広告スペースを多くの事業体に売ることで新聞社の経営を支えています。広告局は第一部から第六部まであり、各部で合計約55種もの業種を担当しています。松下主任も入社後、音楽、学校、企画・開発、通信系、官公庁と様々な業種を担当されてこられました。現在はファッションを担当されています。

「情報としての広告」

新聞は非常に公共性の高い情報媒体です。そのため、新聞に載せる広告には絶対に嘘があってはなりません。規準に基づき2回以上確認作業が行われています。また、広告は年間で新聞紙面の50%まで使用が許可されていますが、編集作業とは独立したものと位置づけられています。広告が記事の内容を左右することはありません。広告の営業はB to B(Business to Business、企業間取引)です。企業のニーズに応えることが最大の目的ですが、枠をアレンジするのは広告局の仕事です。最近では、企業ナビフォーラムの広告など、新聞社オリジナルの企画記事が注目されています。



12月10日 新聞社の企画記事、自由討論

読売新聞同日朝刊に掲載された「女性フォーラム21 日本女性の長い午後」をもとに、企画記事について学びました。(*この特集記事は、北村先生が担当されたものです。)

いつ、どこで、誰に、どんな内容で行うのか。その情報源は、日頃の蓄積にあると先生はおっしゃっていました。

「常にアンテナを張り、たくさんの引き出しを持つこと」

これが、シンポジウム、そしてその後の企画記事の内容を大きく左右します。
自由討論では、各学生が気になる記事を取り上げ、意見を述べ合いました。



12月17日 世論調査と政治報道 編集局世論調査部 玉井忠幸部長

この日は、世論調査部部長の玉井忠幸部長がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。玉井部長は世論調査部に配属になる前は、政治部の記者をなさっていました。

世論調査は各新聞社が月に1回行います。読売新聞の場合、「面接」「電話」「郵送」という3種類の手法を用いて行われています。世論調査では、客観性の担保が重視されています。一定水準の対象を無作為に選出し、すべて同じ条件のもと行われます。

「世論調査の意義と課題」

総理大臣の支持率からも窺えるように、昨今、世論調査は政治や社会の動きに大きな影響を与るようになりました。そのため、世論調査に課せられる説明責任も年々増大しています。「指標」「潮目」「背景分析」つまり、

「世論調査は社会の指標となり、また継続させることで世の中の動きをみることに繋がる」

これが、世論調査が存在する意義であると玉井部長は主張されました。一方で、世論調査が抱える課題も多々あります。同じ調査内容でも、新聞社によって違いが生じてしまったり、世論=気分 にしかすぎないと批判する声が上がったり、世論調査リテラシーが深く問われています。



1月14日 特ダネは何故必要なのか

同日朝刊トップの「内閣不支持率」、元日刊トップ記事を他社の新聞と比較検討し、各新聞の特徴を読み解きました。

読売新聞社は、正月朝刊のトップ記事を「『生体認証』破り入国」という「特ダネ」で飾りました。これは、「元旦には独材」という新聞社ならではの伝統だそうです。

そもそも、特ダネは何故必要なのでしょうか?

「各新聞社間で競合することで一刻も早くニュースを取り、読者の知る権利を獲得する」

このことこそが、特ダネが必要とされる最大の理由です。一社独占ではなく複数紙存在することで、相互に情報を補完しあっているのです。



1月21日 国際報道について 調査研究本部 秦野るり子主任研究員

この日は、調査研究本部の秦野るり子主任研究員がゲストスピーカーとして講義をして下さいました。秦野研究員は、長年特派員として、ワシントン、ジャカルタ、ローマ、カブールなど世界各地で取材をされてこられました。現在 読売新聞社では、世界各国35箇所に総局があり、約60名の記者の方が活躍しています。1人で様々なジャンルをカバーするので、取材方法はかなり自由なそうです。しかし一方で、文化や言葉などすべてが異なる環境の中、家探しからネタ探しまでこなさなければならないので、体力気力共に大変ハードであるとのことでした。

国際報道の意義は「解説」にあり

インターネットの普及により、今や誰もが簡単に世界中の情報を入手できるようになりました。その中で、特派員が変わらず必要とされる理由はどこにあるのでしょうか。

「ただ翻訳してニュースの内容が分かる人はどれだけいるだろう?取材しないと分からない『その地域の匂い』を伝え、歴史的背景などの解説を加える。ここに特派員が存在する意義がある。だからこそ、起きていることをただ伝えるだけではダメ」

秦野研究員のこの言葉には、情報を伝える「読者」への思いが込められています。

「読者がいるおかげで、読者を代表して色んなことを取材し、知ることができる」

特派員時代を振り返り、秦野さんはそう目を輝かせていました。



1月28日 自由討論

最終日のこの日は、生徒による自由討論が行われました。4ヶ月間、新聞についてみっちり学んだ成果が十分に発揮され、非常に内容の濃い討論となりました。
以下、討論の内容

  • アブグレイブ収容所
  • ファーストフード店、ユニクロ好調
  • ETCトラック深夜半額
  • ソマリア沖海賊対策
  • 裁判員制度



クロスメディア化が声高に叫ばれ、情報媒体が多様化している昨今、「何が真実であるかを見極める」ことが非常に難しくなってきています。若者の活字離れが進み、新聞の存在を危ぶむ声もあがっていますが、この混沌とした時代だからこそ、新聞が今まで以上に必要となってくるのではないでしょうか。沢山の記者の方々の苦労と努力の末得られた情報は、現場に足を運んだものだけが知りえる「真実」だといえるでしょう。「新聞は時代の羅針盤である」そのことを、身をもって実感する講義となりました。





文責 / 学生記者:鈴木結加里



受講者の声

  • 「世の中に関心を持つ姿勢」を得ることができました。新聞が100%正しいというわけではないが、新聞を読まなければ世の中について語ることは難しいということに気がつきました。
  • 新聞を自分から読んで、何かを得ようと思うようになりました。友人や家族との会話など身近なところでもっと活用していきたいと思います。
  • 今まで、なんとなく有害だと思っていた添加物について正しい知識を得る機会となった。
  • 新聞の裏側、情報の裏側を読み取る力を身に付けることができました。これからも信頼できる情報源として活用していきたいと思います。
  • これからは、読んでいて少しでも気になったキーワードがあったら、自分自身で深く調べあげて、立体的な社会を見るようにしたいと思います。
  • 新聞の読み方を学んだと思います。新聞が信頼を得るためにどれほど努力をしているか記者の方から聞くことによって、その楽しさ、苦しさを少しイメージしやすくなりました。