平成20年度 現代GP講義
サイエンス・ライティング入門(サイエンスライター:青山聖子先生)

2008年度後期の授業として、サイエンスライターの青山聖子先生を講師に迎えて「サイエンス・ライティング入門」が開講されました。青山先生はお茶大の化学科を卒業したあと、科学技術振興機構(JST)や出版社での勤務を経て、現在はライターのほかにも科学雑誌の編集や研究機関のパンフレット制作、『Nature』や『The Cell』の翻訳、科学館の展示の企画など、科学と社会をつなぐ仕事を幅広く手がけていらっしゃいます。この授業では、科学のエッセイを書くことを通して、書く際の心得やライティングのポイントを学びます。



科学とはどういうもの?

世間の人々にとって科学とはどういうものだと思いますか? そんな問いかけから授業は始まりました。受講生からは「真理を追究するもの」「普遍的な法則を見つけるもの」といった答えが返ってきました。実際のところはどうなのでしょう。

例として、青山先生は文部科学省の関連団体が出している月刊雑誌を紹介してくださいました。表紙には「本当は楽しい!科学技術」と書かれてあります。つまり、「国民は科学を楽しいと思っていない」という認識が前提としてあるわけです。日ごろから教育問題や科学技術の振興などに携わっている文科省の人たちがそのように捉えているぐらいですから、世間の人々にとって科学はそれほど興味を引くものではないのでしょう。「それだけに、科学の雑誌や本を手にとって読んでもらうことは難しく、発信する側にはさまざまな工夫が必要なのです」と青山先生はおっしゃいます。



「つっこみ精神」を持とう

この講義では、ライティングのスキルだけでなく物の見方を養うことも重要な目的です。

「世の中にはおかしな科学の情報がたくさんあります。雑誌の記事や広告、テレビ番組など、ちょっと注意して見てみるだけで、つっこみたいことが山ほど出てくるはずです」 (青山先生)

さて、まずはテーマに沿って、インターネットなどをもとに情報を集めます。その際、信用できる情報をどう見分けるか、参考にできるサイトはどこかといった調査の仕方についても指導してもらいました。そして、集めた情報をもとに自分の意見をまとめ、切り口や構想を練った段階で、どのような方針で書くかを授業中に報告します。

書いたエッセイは授業中にスライドで映し出し、みんなで意見や感想を言い合います。今回の受講生は最終的には2人だったので、構成や言葉の使い方、見出しのつけ方など、ひとつひとつ細かく青山先生にアドバイスしてもらうことができました。何度か推敲を重ね、最終的にブラッシュアップさせたものを完成作品として、キャリアレポート放送局のホームページに掲載しています。


※参考リンク:課題エッセイ Part.3



作品の紹介

半年を通して3つのエッセイの作成に取組みました。1つ目のテーマは「バイオエタノール」です。植物資源を発酵させて作られるバイオエタノールは、環境への負担が少なく、代替燃料として期待されていますが、実際はうまくいっているのでしょうか。また、そもそも「エコ」や「環境にやさしい」とはどういうことなのでしょう。こうしたことを独自の視点で述べています。

2つ目は「健康食品やサプリメント」です。特に健康や美容に関心の高い女性は、「これを飲めばやせる、健康になる」といった宣伝文句につい乗せられてしまうことが多いのではないでしょうか。そんな衝動をいったん思いとどまらせてくれるようなエッセイです。

最後は、本講義のまとめとして、各自が自由なテーマでエッセイを書きました。理系の学生ならではの視点で書かれており、文系の人にとっても興味深い内容です。



受講後の感想と国語教育の問題点

講義終了後、受講生からは「言葉の使い方や癖などを細かく指摘してもらえてよかった」という感想の一方で、「書くのは思った以上に時間がかかって大変だった」「意図を持って文章を書くのは難しい」といった苦労がうかがえる感想もありました。ライティングの指導を受ければすぐに上手な文章が書けるというものではないようです。

話し合う中で、「中学や高校で文章の書き方を教わる機会がなかったような気がする」という感想が出てきました。日本の国語教育は文学作品の読解に偏り、感想文や作文を書く機会はあっても、独自の視点をもとに構成を立てたり、論理的な文章を書いたりする訓練はあまりなされていないのかもしれません。

「書き方を学ぶ中で物の見方を育てることが大事」と青山先生は言います。今回は科学のエッセイを書くという少し難しい取組みではありましたが、受講生にとっては今後につながる貴重な経験と問題意識が得られたようです。



文責 / 秦 千里



受講者の声

  • これから企画するものは、もっと広く宣伝して欲しい。知らないうちに企画があって、終わっていたということが多々ある。
  • 週1回の講義で毎回課題を修正したり、ネタを探してくるのは大変だった。これが1年生のときの受講であったり、集中講義だったりするとよかったのかもしれない。
  • 「書く」ことは自分の考えを 客観性を持って表現することだと学ぶことができ、 またその難しさを知ることができた。