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東京都文京区 理科支援事業
【平成22年度 実施の様子】

実施の様子


 
身近な感覚を科学で解き明かす  ~ 聴覚と骨伝導のふしぎ ~
 
ふるえて、伝わる音
 
  音の正体は「振動」です。ちょっとおもしろい機械を使って確認しました。その名は「ピタッとスピーカー」。デジタルオーディオプレーヤーとアンプの先に吸盤がついています。この吸盤をいろいろなものにつけ、振動させてスピーカーに変えてしまいます。
  予め音が伝わりやすいものと伝わりにくいものを予想します。第九中では前の時間にみんなで予想し、先生が物品を用意してくれたので、イチゴパックや保冷剤(伝わりにくいもの)もありました。段ボールや大きなプラカップなど空間があるものや、テレビモニターなど面積が広いものでよく響くのが感じられたようです。音を伝えるときに段ボールなどが震えることも確かめました。スピーカーは、電気信号を振動に変え、空気を振動させて音を伝えています。
 
 
自分の声に思えない…
 
  マイクを通したり、録音したりした自分の声と、ふだん自分が聞いている声が違う、と思ったことはあるでしょうか。質問にうなずく生徒たち。2年生で学習する聴覚のしくみでは、空気を振動させる音、気導音が、鼓膜や耳小骨、うずまき管を振動させ、振動を神経や脳に伝える信号に変換して、音を聞くことを学びます。しかし自分の声は、気導音以外の方法でも聞いています。自分の耳をふさいでも、声が聞こえるのは、鼓膜ではなく、骨を振動させる骨導音を聞いているのです。骨導音は録音した声では聞くことができないので違和感があります。今日はこの骨導音をもっとわかりやすく、びっくりするような方法で聞いてみましょう。
 
 
噛んで聞こえる!
 
  骨導音をもっとも聞きやすいところ、それは「歯」です。使うものは、オーディオプレーヤーとアンプとケーブル、そしてモーター。モーターを噛むと、オーディオプレーヤーで鳴らした音楽が、聞こえてきます。驚きの体験でした。骨導音が聞こえるところは、どんなところがあるか、おでこや首の後ろの骨、果ては膝や手首の骨など、いろいろなところで検討したり、噛む場所を左右動かしていくと聞こえる方向も変わってくることなどを確かめたりしました。モーターは骨伝導スピーカーになったのです。現在ではこの骨伝導を使ったヘッドホンや、補聴器なども開発されています。
  以下の授業では、前半に聴覚と骨伝導の講義と実験を行い、後半に、4大学コンソーシアムからの講師の講義を行っていただきました。大学での研究と直結した内容の講義に、将来について意識をする生徒も見られました。
 
 

聴覚と骨伝導のふしぎ
難聴やその治療について

難聴の治療法などの研究をしている田中先生からは、3Dアニメーションで耳の構造と聴覚のしくみを詳しくお話していただきました。音楽で鼓膜や耳小骨が震えるイメージがわきました。
  難聴には、鼓膜が傷ついたり、うずまき管の有毛細胞が減ってしまったりといくつかの種類があります。例えばヘッドホンを使って大きな音で音楽を聞きすぎると、有毛細胞が少なくなって騒音性難聴になる可能性がある、というお話にどきっとした生徒もいたようでした。
  最新の治療法では、有毛細胞自体をES細胞から作成する方法なども開発が進んでいるそうです。遺伝子工学や細胞工学、再生医療など、最先端の科学・技術の一端を紹介していただきました。
 
 

感覚と脳  ― 聴覚と骨伝導のふしぎ ―
感覚と脳  ― 痛みやかゆみ ―

「聴覚」と「痛みやかゆみ」。どちらの感覚も外部からの刺激を感じることができるのは「脳」。私たちが生きていくために必要な感覚です。長瀬先生からは、かゆみや痛みを感じるしくみと、薬を作って世の中に出すまでのお話をしていただきました。
  痛みとかゆみは似ているけれど、違うしくみで感じます。痛みは我慢できるが、かゆみは我慢できません。「心頭滅却すれば火もまた涼し」。現代の脳科学はこの言葉も科学的に証明します。その秘密は脳内モルヒネ、これが脳内で働けば、痛みも熱さも感じずにいられるようになるそうです。モルヒネは麻薬の一種なので薬物依存性があります。脳内モルヒネの情報を受け取る脳のしくみの研究から、かゆみは抑えるけれど、薬物依存性はない、これまでとは全く違う新しい薬が開発されました。研究レベルから、薬が作られ、たくさんの試験を行い、発売する、そこまでには十数年という長い年月がかかります。薬を作る、という、なかなか注目されないけれど、多くの人を救う可能性がある重要な仕事について語っていただきました。生徒からは「将来の目標ができた」とのアンケートの回答も見られました。
 
 

五感  ― 聴覚と骨伝導のふしぎ ―
五感  ― 視覚のしくみ ―

視覚の研究をしている岡田先生からは、私たちが視るしくみとその先端研究について教えていただきました。前半で実験した聴覚が感じる「音」と視覚が感じる「光」。どちらも波であり、五感のひとつでもあります。
  中学校で学習する視覚のしくみを、詳しく見て行きます。網膜にある光を感じる視細胞には、色と明るさを感じる2種類があり、色を感じる細胞はさらに3種類に分かれます。赤を感じる細胞は紫、緑色を感じる細胞は赤、青色を感じる細胞は黄色と、それぞれ細胞が吸収した光の残りの色がついているように見える、というお話に生物の不思議を感じました。細胞の中ではタンパク質が光によって反応を起こします。このタンパク質の動きを解明した研究を紹介していただきました。光スイッチとして働くタンパク質がオンとオフの時に違う色になったことに、疑問を持った生徒もいました。実はそれも重要なポイントでした。私たちが視るしくみが、からだを作る細胞の中の小さなタンパク質の反応でコントロールされている、というお話は、身近な感覚でありながら、先端科学につながる興味深いものでした。