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令和7年度研究助成:「新規ビタミンD誘導体の殺鼠剤としての実用性の検証:陸上の生態系を守るために」棚谷綾先生(理学部化学科)

2026年7月13日更新

「新規ビタミンD誘導体の殺鼠剤としての実用性の検証:陸上の生態系を守るために」棚谷綾先生(理学部化学科)

鼠は人間社会に対して衛生的問題、都市機能の阻害、経済的被害など、甚大な影響をもたらし、その駆除には殺鼠剤が有効である。しかし、抵抗性鼠の出現や、二次毒性による標的外生物の中毒が大きな問題であり、代替製剤の開発が急務である。その候補であるビタミンD3はビタミンD特有の毒性による二次被害が問題となり、一部の国で非常に限定的に使用されている。私たちは既存のビタミンD誘導体とは構造の異なり、高いビタミンD活性を持つ新規リトコール酸誘導体Dcha-20を創製し、本化合物が殺鼠活性を有することを見いだした。本研究では、Dcha-20の構造と機能、殺鼠剤としての実用化に向けて、以下の取り組みをおこなった。

(1)Dcha-20の新規誘導体の創製
Dcha-20は高いビタミンD活性を有する一方で、血中からの消失が速い。これまでに、Dcha-20の体内動態に関わると考えられる17位末端のカルボキシ基をアミドやジオール、カルバメートなどに変換することで、ビタミンD活性を維持する誘導体を報告した。今回、代替官能基として、代謝的に安定であり、水素結合ドナー・アクセプターとして機能することで受容体との相互作用強化が期待される1,2,3-トリアゾールに着目し、17位末端への導入を検討した。昨年度確立したDcha-20の効率的合成法に基づきDcha-20の大スケールの合成をおこなった。ついで、17位末端カルボキシ基を1,2,3-トリアゾール誘導体へと変換した。合成したトリアゾール誘導体の生物活性を、ヒト急性前骨髄急性白血病細胞HL-60を用いた細胞分化誘導試験と、ヒト胎児腎細胞HEK293を用いたVDR転写活性試験(ルシフェラーゼレポーターアッセイ)により評価した。その結果、1,2,3-トリアゾール誘導体は、Dcha-20には及ばないものの、高いビタミンD活性を示した。

(2)Dcha-20のプロドラッグの創製
Dcha-20のプロドラッグとして、各種エステル誘導体を合成した。これらの殺鼠活性を検討したところ、メチルエステル体が比較的強い殺鼠活性を示し、エステル部分(O-アルキル基)が嵩高くなるにつれて殺鼠活性の低下が認められた。メチルエステル体について、単回経口投与後における血漿中のDcha-20濃度を測定したところ、Dcha-20 自身を同用量投与した場合と比較して、メチルエステル体を投与した場合には最高血中濃度到達時間の遅延及び半減期の延長が認められた。異常の結果から、Dcha-20のメチルエステル体を投与した場合は、体内でエステルが徐々に加水分解され、活性本体であるDcha-20が持続的に供給されていることを示している。従って、プロドラッグ化が殺鼠剤開発の有効な戦略となり得ることが示唆された。

(3)Dcha-20の殺鼠活性機序の検討
これまでのDcha-20の殺鼠活性機序の解析から、腎障害のバイオマーカーである尿素窒素、クレアチニン濃度が上昇することがわかっている。そこで、Dcha-20が腎臓、腸管に及ぼしている作用を解明するため、病理学解析を行った。Dcha-20 を投与したラットでは、腎臓において糸球体および尿細管に異常が認められ、腎障害が誘発されたことが示唆された。一方 Von Kossa 染色によるカルシウム沈着は検出されず、致死性の主因が高カルシウム血症によるものではないことが示された。以上の知見は、ビタミンDを殺鼠剤として用いる場合の課題である二次毒性のリスクを低く抑えうることを示している。また、回腸において腸管上皮の損傷が観察され、下痢および脱水症状が誘発されている可能性が示唆された。今後、さらに詳細な殺鼠活性機序の解明を進める予定である。

以上、Dcha-20の殺鼠剤への応用を目的に、新規誘導体、プロドラッグの開発ならびに腎臓・腸管における病理解析をおこなった。本研究ので得られた知見は、Dcha-20もしくはその誘導体が、既存の殺鼠剤と同程度の殺鼠活性を持ちながら、これらの課題を克服する、新たな殺鼠剤として有用な化合物であることを示唆している。今後は、Dcha-20及びその誘導体の殺鼠剤としての有用性、作用機序をさらに詳細に解析することで、より実用的な誘導体の開発を目指す。


【SDGs推進研究所 事務局より】
2026年6月15日(月)に開催したSDGs研究助成 成果報告会では、  棚谷先生より、都市環境におけるネズミ問題への対策として、新規ビタミンD誘導体「Dcha-20(ディーチャニジュウ)」の殺鼠剤についてお話しいただきました。従来の薬剤に対して抵抗性の高い「スーパーラット」が出現していることや、ほかの野生動物への二次被害が課題となっている中で、Dcha-20の殺鼠剤は強い殺鼠活性を持ちながら、体内で速やかに分解され、環境への影響を低減できる可能性が示されました。生態系への負荷を抑えた新たな害獣対策として、今後さらなる検証が進められる予定です。

成果報告会3
棚谷綾先生

棚谷先生の研究はSDGsの次のゴールに関わっています。 
SDGsGoal11 SDGsGoal15

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