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令和6年度研究助成:「フッ化物イオン二次電池におけるセリウムフッ化物系固体電解質の開発」近松彰先生(理学部化学科)

2026年7月14日更新

「フッ化物イオン二次電池におけるセリウムフッ化物系固体電解質の開発」近松彰先生(理学部化学科)

【緒言】
現在スマートフォンから電気自動車まで幅広い機器にリチウムイオン二次電池が利用されている。しかし、リチウムの発火リスクや地政学的な懸念から、リチウムに代わる元素を用いた二次電池の開発も世界的に進められている。その中で、広い電位窓と高いエネルギー密度を持ち、埋蔵量が豊富であるフッ素を伝導イオンとして利用した全固体フッ化物イオン電池が注目されている[1,2]。全固体フッ化物イオン二次電池の固体電解質には、高いフッ化物イオン伝導性を持つ蛍石型のアルカリ土類金属フッ化物やタイソナイト型の希土類金属フッ化物が検討されている[3]。

金属フッ化物の合成には、固相反応、水熱合成、溶融成長法、金属化合物前駆体とF2ガスやHFガスとのフッ化反応など、いくつかの方法がある。最近では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたトポケミカルフッ化反応によりペロブスカイト型BaBiO3前駆体薄膜から蛍石型Ba0.5Bi0.5F2.5薄膜が合成され、353 Kで3.4×10-7 S cm-1を示すフッ化物イオン伝導体であることが示された[4,5]。本研究では、セリウム化合物であるSrCeO3薄膜にPVDFを用いたトポケミカルフッ化反応を施し、フッ化による結晶構造・化学状態変化とフッ化後のフッ化物イオン伝導性を調べた。なお、本研究は、SDGsのゴールである7.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに、9.産業と技術革新の基盤を作ろう、12.つくる責任、つかう責任に該当する。

【実験手法】
前駆体であるSrCeO3薄膜は、SrTiO3 (100)基板またはNb 0.5%ドープSrTiO3 (100)基板上にパルスレーザー堆積法で製膜した。次に、SrCeO3薄膜をPVDFとともにAr雰囲気下の管状炉で100–550度、1時間加熱して、トポケミカルフッ化反応を施した。作製した薄膜は、X線回折(XRD)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)による結晶構造解析、X線光電子分光(XPS)およびエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素分析により評価した。フッ化後の薄膜のフッ化物イオン伝導率は、薄膜の面直方向で交流インピーダンス法により評価した。

【結果と考察】
図1のXRDの結果から、200度までは薄膜のピーク位置が前駆体と変化せず、ペロブスカイト構造を保つことがわかる。250 度、300度の反応では、それまでのピークに加え2θ = 30º近傍に新たなピークが出現した。このピークは蛍石構造を示しており、250–300度付近ではペロブスカイト構造と蛍石構造が混合していることが確認された。350度以上では、ペロブスカイト構造のピークは消失し、完全に蛍石構造へと変化した。前駆体のペロブスカイト構造、250–300度の混合構造、350度以上の蛍石構造は、STEM像でも明瞭に観測された。さらに、XPS測定およびEDS測定から、350度以上でフッ化した薄膜はCe3+を有するSr0.5Ce0.5F2.5の化学組成であることが明らかになった。

R6研究助成_近松先生_図1
図1. SrCeO3前駆体薄膜と100~550度で1時間フッ化した薄膜のXRD θ-2θパターン。

以上の結果から、PVDFを用いたトポケミカルフッ化反応によるSrCeO3薄膜の結晶構造変化は図2に示した模式図のように描くことができる。350度以上でフッ化すると、ペロブスカイト構造のO2-イオンが抜け出し、抜けた半分にF-イオンが入り込む。また、カチオン層の間にある蛍石構造のアニオンサイトにF-イオンが入る。さらに、Sr2+イオンとCe3+イオンは、別々のサイトにあった状態から同一のサイトに移動し共存する。

R6研究助成_近松先生_図2
図2. PVDFを用いたトポケミカルフッ化反応による SrCeO3 薄膜の結晶構造変化。

Sr0.5Ce0.5F2.5薄膜のフッ化物イオン伝導率を調べるため、500度でフッ化して作製したSr0.5Ce0.5F2.5薄膜の面直方向のインピーダンススペクトル(323~493 K)を測定した。いずれのインピーダンススペクトルも、高周波数領域で薄膜内部のフッ化物イオン伝導に起因する半円状のプロット、低周波数領域で薄膜/電極界面のイオン伝導に起因する直線のプロットが得られた。得られたインピーダンススペクトルから計算したSr0.5Ce0.5F2.5薄膜の温度に対する面直方向のフッ化物イオン伝導率を図3に示す。Sr0.5Ce0.5F2.5薄膜は353 Kで4.2 × 10-7 S cm-1のフッ化物イオン伝導率を示した。この値は同様の方法で作製されたBa0.5Bi0.5F2.5薄膜のもの[5]よりも高かった。さらに、アレニウスプロットから面直方向の活性化エネルギー(Ea)は0.61 eVと見積もられた。これらの結果は、フッ化ストロンチウムセリウムがフッ化物イオン固体電解質として有用であることを示している。

R6研究助成_近松先生_図3
図3. Sr0.5Ce0.5F2.5薄膜の面直方向におけるフッ化物イオン伝導率。

【参考文献】
[1] M. Anji Reddy and M. Fichtner, J. Mater. Chem. 21, 17059 (2011).
[2] M. Nowroozi et al., J. Mater. Chem. A 9, 5980 (2021).
[3] N. I. Sorokin and B. P. Sobolev, Crystallogr. Reports 52, 842 (2007).
[4] A. Chikamatsu et al., ACS Omega 3, 13141 (2018).
[5] S. Doyle et al., ACS Omega 9, 39082 (2024).


【SDGs推進研究所 事務局より】
2025年6月11日(水)に開催したSDGs研究助成 成果報告会では、近松先生より、リチウムに代わり注目されるフッ素を利用した全固体二次電池の固体電解質としてセリウムフッ化物に注目し、これらの単結晶薄膜を合成する手法についてお話がありました。

第2報告近松先生
近松彰先生

近松先生の研究はSDGsの次のゴールに関わっています。
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» R7年度SDGs研究助成成果報告会(第1回)(PDF形式 1,647キロバイト)

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