ページの本文です。
2025年6月3日更新
日時 |
2025年5月30日(金曜日)15時~16時半 |
会場 |
人間文化創成科学研究科棟604 |
登壇者 |
松本奈紗(富士通研究所量子研究所) |
参加学生数 |
10名 |
2025年5月30日、本学学生を対象としたセミナー「FUJITSU DAY:富士通の女性研究者・開発者と紐解く企業研究者としてのキャリアパス」が開催された。本セミナーは、ジェンダード・イノベーション研究所と富士通株式会社の連携による「リサーチラボ社会連携講座」による企画である。
女性の工学人材の育成が社会的要請となっている今日、大学で理工系分野を専攻した女性たちが、企業の研究・開発職に就いて活躍するキャリアパスの構築と、その可能性について現役の大学生・大学院生に伝えることは、企業にとっても重要な活動となっている。本セミナーでは、パネルディスカッションの形で、富士通の量子研究所の松本奈紗さん(本学卒業生)と、先端技術開発本部の高木紀子さんが、女性研究者・開発者としての経験について話し、参加者からの仕事や働き方、キャリアパスについての質問に答えた。
セミナー冒頭では富士通のR&D人事部からの挨拶と富士通株式会社および富士通研究所の紹介があり、それに続くパネルディスカッションは、3つのディスカッションテーマを軸に進められた。
ひとつめのディスカッションテーマは「企業の研究者・開発者とは」であった。松本さんは本学で情報科学の修士過程を終了してから、富士通で研究の仕事を続けている。企業での研究について、大学での研究よりも実用に近く、社会に貢献している実感がある一方、短期間で成果を求められるといったプレッシャーもあるが、やりがいを感じていると話した。高木さんは、開発という仕事について、研究者が築き上げた技術を使える形にする仕事であると説明した。モノを作って人に渡すというプロセスには、できたものが正しく動くかの検証や資材調達など、多岐に分かれた工程があるとのことである。これまでに一番やりがいを感じたのは、自分が開発したプロセッサーを自分の仕事で使った時で、開発したモノが使われる、ということを実感したそうだ。参加者からは、仕事のプレッシャーはどのように乗り越えているか、仕事の悩みについては誰にどう相談しているのか、どのようなスキルアップの機会があるかといった質問があった。
ふたつめのディスカッッションテーマは「学生時代から就職までの歩み」。富士通への就職を決めた理由や、どういう人が研究職に向いているか、何が評価されるか、といったことについて、ふたりのパネリストは参加者から次々と出される質問に答えてくれた。学生時代に仕事について思い描いていたことと現状に違いはあるか、との問いに対してのふたりの答えは対照的で、松本さんは「あまりない」といい、高木さんは「たくさんある」と応じた。高木さんも修士課程で研究生活を送ったのちに富士通に就職しているが、開発という仕事についてのイメージはあまりもっていなかったという。研究と開発は、研究開発やリサーチ・アンド・ディベロップメントという形でひとまとめに語られることも多いが、そのふたつの職種の違いを知ることができるのも、本セミナーの企画の特徴であった。
最後のディスカッションテーマは「富士通での働き方について」であった。富士通は、新型コロナの流行をきっかけに、出社とリモートワークをフレキシブルに組み合わせることができる働き方を制度化してきている。また、ワーク・ライフ・バランスを尊重することを基本としており、通院や子どものお迎えのために仕事を中断したり、切り上げたりということへの理解が浸透しているそうである。女性幹部として働きながらの出産・育児の経験談からは、こうした制度が整っており、サポートがあることの重要性や安心感が伝わってきた。
参加学生たちは、終始熱心に登壇者の話を聞き、質問をし、終了後も登壇者との話を続けている姿も見られた。今回のような、企業の女性エンジニアから直接話を聞き言葉を交わす機会が貴重であることが、その様子から見て取れた。ワーク・ライフ・バランスや仕事と家事・育児の両立は、女性に限った問題ではないが、特に女性にかかりがちな負荷への対策が必要な企業人事の課題である。そこに配慮した働き方の制度の充実や企業文化の醸成は、女性の研究・開発職への就職を増やすことと、そこでの活躍に発展することだろう。富士通のR&D人事部では、研究開発職を目指す学生を対象に、オフィスツアーと研究者との座談会や、夏季インターンシップの実施を予定しているとのことである。
ジェンダード・イノベーションは理工系の研究開発の変革ステップとして、1.女性研究者の数を増やす、2.女性研究者が働きやすい制度を整える、3.性差を考慮した知識を整える、を提示している。この3番目がジェンダード・イノベーションということである。今回のセミナーは、直接的には1と2に関連するものであったが、この3つの変革ステップは連関してイノベーションを生む環境を創造する。本セミナーのような取り組みは、近い将来のジェンダード・イノベーション視点の研究開発の拡充につながるだろう。
記録担当:吉原公美(URA)