平成20年度では以下の2つの異なる理科実技研修を行いました。
その1
北区全38校の内37校(滝野川小学校を除く)で実施。
1. 単元「てこのはたらき」にかかわる指導と教材・教具の工夫
2. 実験中の事故例と対応方法
3. 水溶液の調整方法と廃液処理
その2
1校(滝野川小学校)で実施(平成21度のテーマである「電気」の教員研修の前倒し実施です)。
4年生の内容(新指導要領)
1. 乾電池が電流を流す仕組み
2. 直列と並列のちがい
6年生の内容(新指導要領)
3. ニクロム線の抵抗と発熱
4. 手回し発電器
5. エネルギー変換(熱、光、電気、運動、音)
小学校の教員は文系出身者が多く、理科の授業を苦手としている場合が多いです。そうした状況を改善するために、東京都北区の公立小学校全校(38校)の全教員を対象に理科の実技研修を実施いたしました。
本研修は、東京都北区教育委員会の委託を受け、お茶の水女子大サイエンス&エデュケーションセンターが実施いたしました。まずは、てこ実験器や薬品などを使った体験型の研修プログラムを開発、その後、講師陣(森川 聡 他)が各小学校を1校ずつ訪問し、研修をおこないました。研修の期間は平成20年7月 9日から12月1日の約5ヶ月間です。
研修では、教員が現場ですぐに使える"活きた知識"を重視した内容で、薬品や実験器具などの道具を使いながら、グループディスカッションなども交えて進めました。
内容は次の3つです。
1. 単元「てこのはたらき」にかかわる指導と教材・教具の工夫
2. 理科の観察・実験にかかわる安全管理
3. 廃液の適切な処理方法
1つ目の内容「単元「てこのはたらき」にかかわる指導と教材・教具の工夫」では、てこ実験器を使いながら、"理科授業のコツ"を紹介しました。予想は個人→班の順序でさせるとよいこと、授業が終わった後も教室に実験道具を置いておくこと(児童の体験する機会を増やすために)などは紹介さしたコツの一部です。 また、ゲームを通して知識を定着させる方法、予想や記録がおこないやすいワークシートも紹介しました。参加した教員の皆様は児童の視点に立ち、楽しみながらその方法を体験していました。
2つ目の内容「安全管理」では、先生自身が過去に経験した理科実験中の事故や対処方法について意見交換を行いました。その後、6年生の単元「水溶液の性質とはたらき」で使用する水酸化ナトリウム水溶液を作り、その作業の中で危険を伴う薬品を扱う際の留意点確認しました。留意点として、①周辺整備:換気やゴミ箱の設置、薬さじやガラス棒などの、使用した器具入れ(水を張ったビーカー)を用意する、②道具の取り扱い:ビーカーやメスシリンダーなどの実験道具は手で持ち机に固定する、③薬品の扱い:水溶液の調整は、薄める水に原液を入れて希釈する、等の提案をしました。また、効率的かつ安全に実験を行うための道具として、電子天秤や安全ゴーグル等を紹介しました。参加した教員の中からは、「今まで知識があやふやなまま実験をしていたが、今回の研修で正確な手法を学ぶことができて自信がついた」などの感想が聞かれました。
3つ目の内容「廃液処理」では、水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ性廃液のポリタンクへ処理する作業を行ないました。廃液処理は、薬品によって処理方法が異なるため現場の先生にとっては混乱しやすく、多くの学校ではこれまでは適切な廃液処理がされていませんでした。薬品はそのまま流してよいものもあれば、水で薄めて流すものや、ポリタンクに保管するものあります。そこで本研修では、小学校で使用する薬品の処理の一覧表と廃液処理用のポリタンクを配布し各学校が簡単に適切な廃液処理をできるようにしました。「(配布された)廃液処理の一覧表があれば、いちいち調べずに正しい処理方法が分かって便利」「"いつか"と思いながら今まで買っていなかったので、廃液処理タンクをもらえることは非常に助かる」などという感想が聞かれました。
お茶大SECと滝野川小学校との共同で、電気をテーマに、次年度(平成21年度)の研修プログラム開発とそのプログラムでの教員研修をおこないました。電気をテーマに選んだのは、アンケートの結果から、次年度の教員研修のテーマとして「電気と磁石」が最も要望が多かったからです。
電気の研修の内容は次の通りです。
4年生の内容(新指導要領)
1. 乾電池が電流を流す仕組み
2. 直列と並列のちがい
6年生の内容(新指導要領)
3. ニクロム線の抵抗と発熱
4. 手回し発電器
5. エネルギー変換(熱、光、電気、運動、音)
冒頭で、新指導要領について説明しました。これまで、6年生で学習していた電磁石が5年生に移り、6年生には手回し発電機による発電や、コンデンサーによる蓄電、電気抵抗などが入ってきます。また、小学校と中学校それぞれで習う電気の内容のつながりについても軽く説明いたしました。
1. 乾電池が電流を流す仕組み、および②直列と並列のちがいでは、実際の乾電池や模型、ワークシートなどを使い、時には受講者が前に出て自分の考えを説明する場面もありました。電池の減りの早さは、直列、1本のみ、並列の順だということを講師が説明すると、多くの教員は驚いていましたが、その後の説明を聞いて、納得していただけたようです。
3. ニクロム線の抵抗と発熱では、ニクロム線と豆電球を直列につないだ回路で、抵抗の大きさを実感するという内容でした。ニクロム線の長さや太さによって、豆電球の明るさが変わるのを確認した実習では、「明るさの変化に驚いた」との感想が教員の方々から聞かれました。
4. 手回し発電機を触ったことのない教員の方は、手回し発電機のハンドルを回すと、豆電球が点いたり、電子オルゴールが鳴ったりすると、びっくりしていました。引き続き、手回し発電機で、電気が点く仕組みについての説明を講師が行いました。
5. エネルギー変換(熱、光、電気、運動、音)です。通常、人は電気を熱に変えて物を温めたり、光に変えて照明としたり、運動に変えてモーターを回したりして使っています。このエネルギー変換(熱、光、電気、運動、音)を理解するために、今回の研修で登場した道具は電気をどのように変化させているかを、全員で考えました。例えば豆電球は電気→光です。電子オルゴールは、電気→音です。いままで、何気なく使用していた電気を使った身の回りの道具が、エネルギー変換をしていたことを初めて意識した方もいらっしゃいました。