第2回研究会 2011年日本地理学会秋季学術大会

日 時:2011年9月24日(土) 15時~17時
会 場:大分大学
演 題:「被合併山村における集落の実態と地域住民の対応-浜松市佐久間町を事例として-」
講演者:中條曉仁(静岡大学)
参加者:8名

要 旨:  近年の中山間地域は社会経済地理的な変化に直面している。すなわち、①グローバル化に伴う製造業と農業の後退、②構造改革による市町村合併と公共投資の削減、③サービス経済化の進展に整理できる。①は海外シフトに伴う域内立地工場の閉鎖や縮小、輸入自由化や円高による国内農産物価格の低迷、林業の慢性的な不振に表され、②は「平成の大合併」による広域自治体の成立による中山間地域の再編成と「周辺性」の強化、地方交付税の減額や公共投資の削減に伴う建設事業者の減少など行財政面での構造変化が認められる。一方、③は高齢者福祉サービス従事者の増加とルーラルツーリズムに対する社会的な注目が挙げられ、産業構造の変化が指摘できる。
 このうち本報告は②に注目し、中山間地域を含む広域合併により政令市となった浜松市を事例に取り上げた。市域の65.7%を中山間地域が占める浜松市のうち、被合併山村で高齢化が特に高い(49.7%)天竜区佐久間町(旧磐田郡佐久間町)における集落の実態と地域住民による対応を検討した。
 佐久間町に立地する集落は小規模・高齢化が進んでおり、天竜川の支流部でかつ標高の高い集落ほどそれが顕著であった。逆に、天竜川本流部の集落では世帯数が比較的維持されているものの、高齢化は支流部同様に高かった。また、世帯人員の規模は全体的に縮小しており、高齢者世帯の増加を示していた。
 中山間地域の周辺性を明らかにするために浜松市の行政機構の再編成を検討したところ、旧佐久間町役場に設置された「佐久間地域自治センター」の職員数は合併前の4分の1程度に削減されており、独自の予算権限も有しておらず、窓口業務に集約されていた。また佐久間町の住民代表者で構成され、市当局への意見具申の場でもある「佐久間地域協議会」は2011年度をもって廃止され、天竜区全域で構成される「天竜区協議会」に一本化される予定となっていた。天竜区を構成する他の被合併山村も同様の再編成に直面しており、行政による中山間地域管理の縮小が進んでいる。
 こうした中山間地域の周辺化が進む中で、佐久間町では合併施行の2005年に旧佐久間町当局の支援もあり、地域住民組織の「がんばらまいか佐久間」が立ち上げられた。これは全町規模で組織されるNPOであり、過疎地有償運送事業(NPOタクシー)や農家レストラン、コミュニティ行事の運営主体となっている。活動に従事するのは活動会員に登録した住民であり、新たな雇用の場となっている面も注目される。
 しかし、「がんばらまいか佐久間」は地域に密着した活動を目指してはいるが、自身の活動が住民の日常生活にそれほど浸透しているわけではないこと、特に人口の大部分を占める高齢者の生活維持に対して直接的な役割を担っているとはいえないことが指摘できる。むしろ、イベントの実施を通して縮小する行政の肩代わり的な機能を有し、都市農村交流を基軸とした地域振興の担い手としての性格が強い地域組織と考えられる。今後は、地域住民組織と集落組織との関係性から住民の生活維持における意義を検討することや、組織形成を可能とする地域的基盤を明らかにすることが課題となる。

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