第4回研究会 2012年日本地理学会秋季学術大会

時 期:2012年10月7日 13時~15時
会 場:神戸大学鶴甲第1キャンパス D棟312教室
演 題:「介護保険地域密着型サービスの整備の実態-第4期計画における自治体施策と介護報酬改定との関係から」
講演者:畠山輝雄(日本大)
参加者:12名

要 旨:  2006年4月に新設された地域密着型サービスは、サービスの整備に関して市町村の権限が拡大されたにもかかわらず、夜間対応訪問介護や地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設を中心にサービスが実施されていない市町村が多いことから、サービス供給の地域差が大きいことが指摘されてきた。これを踏まえ、国は2009年4月に介護報酬の改定を実施した。この介護報酬改定の特徴は、地域密着型サービス全般において介護報酬を増額させていることや、地域加算要件の変更に伴い都市部の市町村に手厚い介護報酬となったことがあげられる。
 そこで、本発表では介護報酬が改定された2009年4月以降(第4期計画)の地域密着型サービスの整備実態を明らかにするために、2009年3月末と2012年3月末のサービス実態を比較する。
 地域密着型サービスの地域差は、2009年から2012年にかけてやや縮小した。これは、サービスが実施されていなかった市町村で、新設されたことが影響している。ただし、このような市町村はわずかであり、全体としては充足指数(要支援・介護者100人当たりの定員(事業所)数)は認知症対応型共同生活介護を除いて、低下もしくは変化なし(0のまま)の市町村が多かった。
 この要因については、都市部の市町村を中心に第4期介護保険事業計画において施設定員の増加計画を立てている割合が高かったものの、実際にはその計画通りに事業者が参入してこなかったことがあげられる。地域密着型サービスの事業者については、地域密着型介護老人福祉施設を除いて営利法人が多いため、採算性を理由に消極的な参入状況となったことが考えられる。
 以上より、地域密着型サービスの介護報酬額が全体に上がり、また都市部における介護報酬が手厚くなったにもかかわらず、地域密着型サービスの充足度は向上しなかったといえる。つまり、介護報酬改定の影響はサービス整備に大きく影響しなかったものと考えられる。2012年~2014年の第5期計画においても介護報酬の改定が行われたが、その結果として介護保険料が上昇し、住民負担が増えるだけでサービスが向上しないのであれば、無駄な改定である。小手先だけの改革では困難であるため、従来の介護保険サービスとの棲み分けも含め、サービスの枠組み全体の再検討が必要であると考える。
 
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