第7回研究会 2015年日本地理学会春季学術大会
「新しい公共」の地理学研究グループとの共催
時 期:2015年3月29日 13時~15時
会 場:日本大学文理学部 3408教室
演 題:「廃校跡地を利用したデイサービスによる過疎集落維持の取り組み-徳島県三好市三野地区太刀野山地域を事例に-」
講演者:畠山輝雄(鳴門教育大)
参加者:17名

要 旨: 現在の農山村地域では、高度経済成長期以降の若年層の人口転出により少子化・高齢化が顕著になっており、それに伴う限界集落化によるコミュニティの崩壊も進んでいる。このため、行政や住民による社会的結節点やサポートの重要性が指摘されているものの、行政の財政難や担い手の確保の難しさから困難な状況となっている。しかし、一方で社会的企業が新しい公共の担い手として注目されている。また、他方では少子化に伴う学校統廃合が近年進んでおり学校という公共空間の跡地利用が課題となっている。
 そのような中で、徳島県三好市三野地区太刀野山地域では、旧太刀野山小学校の跡地において徳島市内の民間企業がデイサービスや高齢者サロンを運営しながら集落維持に取り組む事例が行われている。本報告では、上記事業の可能性と同事業が集落住民および地域へ及ぼす影響について明らかにした。
 太刀野山地域は、三野地区の周辺部の斜面地に集落が点在しており、もともと葉タバコの栽培が盛んな地域であったが、高度経済成長以降の葉タバコの需要減少や大都市圏での雇用の増加が影響し、生産年齢人口を中心とした人口転出が顕著となり、人口減少および高齢化が進んできた。それに伴って太刀野山小学校の生徒数も減少し2004年には休校となった。三好市では同様の小中学校が多くみられ、その跡地利用が課題となっていたことから2013年より三好市休廃校等活用事業が実施され無償貸与による事業者の公募が始まった。これに目を付けた徳島市内の民間業者が太刀野山小学校の跡地利用に応募し、デイサービスやサロン(集落によって来訪曜日が異なる)などを中心とした「さくらの里」を2013年11月に開設した。
 さくらの里の収入源は介護保険事業の小規模通所介護、自主事業の介護予防体操教室、サロン(カフェ)・カラオケなどがあり、介護保険事業が大半を占めている。支出は賃料が無料であるため、人件費と光熱費が大半を占めている。また、初期投資はインフラ整備、バリアフリー整備などで自己負担により1,000万円程度を要した。現在の収支はマイナスであるが、2015年度よりみよし広域連合から地域支援事業の介護予防事業の委託を受けることで採算が取れる予定となっている。
 さくらの里が開設される以前は、集落内の住民が集まる機会は自治会が開催される年4~5回であり、太刀野山地域全体の住民が集まる機会はふれあい運動会と社協主催のいきいきサロンの年2回程度であった。しかし、さくらの里が開設されて以降は、集落内の住民は毎週顔を合わせることになり、太刀野山全体でも4月に花見が開催されることで集まる機会が増加した。その結果、安否確認において民生委員の負担が減少し、さらに高齢者の活動機会の増加、地域の活気が生まれるようになった。特に、住民が同施設の撤退を危惧し、施設を守るために他地域から友人を勧誘したり、集落維持に向けた前向きな発言をするなど危機感を持ち出していることが大きな効果である。しかし、身体が不自由であったり、コミュニケーションを嫌うことを理由に施設に来訪しない高齢者も存在することは課題である。
 以上のように、さくらの里の開設により、太刀野山地域および住民の活力は向上したといえるが、今後人口の自然減を中心にサービス需要が減少してく中で、事業を継続していくためには福祉以外の事業の展開が必要であり、同事業者では就労体験型宿泊などを実施することを検討している。しかし、このような事業は他地域でも実施していることであり競合が生じるため、他地域との差別化が今後必要となるが、それには地域ブランドの創出など行政のサポートも必要となってくる。ただし、このような周辺部の山間地域での福祉サービスをベースとした廃校を活用した集落維持の取り組みはそれほど多く行われているわけではないため、このまま集落維持が進めば新たな集落維持モデルとなることが期待される。
 
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