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【開催報告】お茶大生によるジェンダード・イノベーション研究 英語プレゼンテーション

2024年1月5日更新

開催概要

【日時】2023年11月30日(木)10:40~12:10(※3・4時限)
【会場】お茶の水女子大学本館135室カンファレンスルーム
【講師】ロンダ・シービンガー氏 (スタンフォード大学・教授)
【発表者】相原風歌(生活科学部 4年)、後藤早苗(生活科学部 4年)、岩佐結風(生活科学部 3年)、石戸谷由梨(理学部 3年)、吉田真歩(生活工学共同専攻修士1年)
【言語】英語(通訳あり)
【参加者数】29名

プログラム

第1部(英語プレゼンテーション)

3組(5名)の学生によるジェンダード・イノベーションに関する研究・調査のプレゼンテーションに対して、シービンガー教授がコメントをするセッション
① "Fatigue-relieving product designed for Men"
相原 風歌、後藤 早苗、岩佐 結風
② "Anshin Yomichi: Anti-crime application fora women on the dark street"
石戸谷 由梨
③ "What is the future of inclusive restrooms?: from Gendered Innovation perspective"
吉田 真歩 

第2部(修了証授与)

IGI教員による講評および修了証授与のセッション

開催レポート

ポスター本セミナーは、本学の学生が海外の第一線の研究者と直接議論することで、ジェンダード・イノベーションのアイデアを考え、洗練していく楽しさを体験するために企画しています。(2022年度の開催報告はこちら)  
発表者は、ジェンダード・イノベーション研究に関する文献や資料を調べ、データに基づいたアイデアを英語で発表し、各プレゼンテーションに対して、ジェンダード・イノベーション提唱者であるロンダ・シービンガー教授からアイデアの具体化に向けたコメントをもらいます。
英語プレゼンテーションに向けた準備期間が約1か月だったにも関わらず、発表者は、何度もデータの見直しやプレゼンテーション内容の検討を行い、リハーサル直前まで吟味を重ねました。
発表当日は早めに会場に集合し、プレゼンテーションの最終確認を行ったのち、シービンガー教授に簡単な自己紹介を行いました。今年度は、初の対面開催であり、世界的権威のある研究者を前に、緊張感の高まりを感じるなかでセミナーが開始しました。

 

セミナーの様子第1部「英語プレゼンテーション」では、3組5名による発表とシービンガー教授による発表へのフィードバックが行われました。

1つ目の発表「Fatigue-relieving product designed for Men」は、2023年度前期授業「アントレプレナーシップ演習:ジェンダード・イノベーション入門編」で考えたアイデアです(授業シラバスはこちら)。発表者の相原さん、後藤さん、岩佐さんの3名は、「繊維×ジェンダード・イノベーション」チームとして、知財検索システム(SCOUT)等を使ってジェンダード・イノベーションの事例を検索したところ、男性が長時間労働や更年期による筋肉の減少によって疲労を抱えているにも関わらず、男性用の疲労回復アイテムが少ないといった気づきがありました。そこで、①疲労回復に効果的な大腿部を着圧する設計、②女性よりも暑さに弱い男性に適した蒸れにくい素材、③既存商品に多いスポーツ用途ではなくリラックス/睡眠用のアイテムを目指した、男性向け着圧タイツ「Oashis(オアシス)」の提案です。シービンガー教授からは、男性更年期といった若者が気づきにくい問題に対して、女性が利用している着圧タイツを応用したアイデアが面白いというコメントがありました。

2つ目の発表「Anshin Yomichi(安心夜道): Anti-crime application fora women on the dark street」は、発表者の石戸谷さんが代表として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の2023年度未踏IT人材発掘・育成事業で採択された「GPSと合成音声による防犯スマートフォンアプリケーションの開発」によるアイデアです。(採択のお知らせはこちら)日本は主要国のなかで殺人罪が低く、子どもたちだけの登下校や女性の夜の歩行が可能なものの、公然わいせつ罪のデータでは、被害者の90%が女性であり、発生場所の第一位が路上です。そこで、女性が夜に安心して外出できるための、位置情報共有アプリの提案です。ただし、アプリ実用化のためには、「位置情報を誰かとシェアする」ことで不安が生じないように、すぐに誰かを呼ぶことができるものの、情報共有のタイミングは不安を感じた場合に限定するなど工夫が必要です。プレゼンテーションでは、実際にアプリのデモンストレーションがありました。女性が夜道を怖がる理由に、体格の差ではなく、社会的な性差が関係していることを伝えるためにはどうすればよいかといった石戸谷さんの質問に、シービンガー教授は、(男性視点では)気づきにくいバイアスを知ってもらうためにジェンダード・イノベーションがあり、関連するデータを丁寧に説明することで理解を促すことができると信じていると述べ、いくつかの事例の紹介がありました。

3つ目の発表「What is the future of inclusive restrooms?: from Gendered Innovation perspective」は、学内公募によるジェンダード・イノベーションに関する研究プロジェクト「インクルーシブなトイレ環境の空間形成に関する研究」(研究代表:藤山真美子准教授)における研究・調査のアイデアです。(研究概要はこちら)現在、日本の公共トイレは「男性」「女性」「多機能」トイレの三種類があります。多機能トイレは性別に関係なくだれでも使用できるため、LGBTQ+の人たちや異性介助を必要とする人、性別の異なる親子など男女別トイレの利用が難しい人たちの受け皿となっています。一方で、多機能トイレに利用が集中すると、身体障がい者など多機能トイレしか使えない利用者に制限が生じるという問題があり、男女共用トイレの導入やトイレ空間の共用化が必要です。しかし、マジョリティである男性や女性の中には共用トイレに対する心理的な抵抗感を持つ人がいます。たとえば、発表者である吉田さんたちが実施したWEB調査では、「トイレの共用化は必要だが、十分な議論と配慮をして欲しい」という意見が約4割、「共用トイレを利用しない」と解答した人が約半数います。また、共用トイレに対する環境心理的な評価に関するインタビュー調査では、①便器の選択肢の違い:男性は大小便器の2つの選択肢があることから女性に比べ「大便器に汚いイメージ」を持つ、②他者の目:「使うのに気が引ける」理由として、女性は「使うと自分が目立つ」、男性は「自分のためのトイレではない(他者への配慮)」、③デザイン性:女性は高級感のあるデザインを好み、男性は高級感のあるデザインを排他的に感じるといった主に3点の共用トイレに対する性差があります。 そこで、これらの違いを踏まえた共用トイレのデザイン案の提示がありました。 シービンガー教授は、(スタンフォード大学がある)カリフォルニア州では、誰がどのトイレを使用しても気にしないため、「男性」「女性」の個別トイレしかなくても日本のように問題にならない。トイレ問題は、日本に特徴的な面白い視点だといった指摘がありました。加えて、性差に基づくデータをもとに、機能性、安全性、空間デザインの観点を踏まえた設計のアイデアの実現化を目指して欲しいといったコメントがありました。

第2部「修了証授与」では、IGI教員より講評がありました。各発表内容に対するアドバイスとともに、未来のイノベーションに結びつくアイデア実現への期待が述べられました。今回発表した学生には、斎藤悦子副研究所長・研究部門長より「Certificate of Participation」を授与されました。

セミナーの様子セミナーの様子


報告者:高丸理香(ジェンダード・イノベーション研究所 特任准教授)

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