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2023年3月17日更新
開催日時 |
2022年12月7日(水曜日)9:30~10:30 |
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講師 | 伊藤 貴之(基幹研究院 自然科学系 教授/IGI研究員) |
開催方法 | Zoomミーティング(学内) |
参加者数 | 31名 |
2022年12月7日(水)、第3回IGI学内セミナー「ジェンダーバイアス発見のための情報可視化」がオンライン方式で開催され、31名が参加した。
データに潜むジェンダーバイアスを発見することは難しく、重要な課題になっている。本セミナーでは、情報科学をご専門とする伊藤貴之教授から、描画による情報可視化によってデータを効果的に画面表示し、ジェンダーバイアス発見に活用する方法を学んだ。
機械学習あるいはAIが行う判断・判別は、データ中の多数派に適合しやすく、少数派に対するバイアスが生じやすくなっている。人事評価へのAIの導入に、AIの誤判断の実例がある。Amazonの人事評価のAIシステムは女性を低く評価したため廃止された。これは、男性社員が多いことから男性に適合するAIシステムが出来上がり、それが女性に不利に働いたためである。また、翻訳ツールのAIは、医師は男性、看護師は女性というような性別固定的な判断をしてしまうことが多い。
情報可視化は、大規模で複雑なデータの全貌を人間が理解し、興味深い事象を発見し、意思決定につなげるためのツールとなると解説された。伊藤研究室では、流体、音楽、人間関係といった多様な情報の可視化の研究が進められており、ジェンダーバイアスについては、次のような研究結果がある。
空調の温感の研究では、環境と回答者の属性の組み合わせを可視化することで、温感で男女差が生じる要因が発見された。映画推薦システムの研究では、分析に用いた映画鑑賞履歴データに男性が多く含まれていたことから、男性顧客にはその人の好みに合った映画が推薦されることが多かったが、女性顧客にはデータのバイアスによって、好みに合わない映画の推薦が多くなされたということが可視化により明らかになった。これらの研究結果から、可視化によりバイアスを発見し、そのバイアスを補正する努力が必要だと説明された。
今後の課題として、より多くの人にジェンダーバイアスの問題に興味を持ってもらうためには、女性だけでなく男性の不利益にも着目した研究を進める必要があると指摘された。これは、ジェンダード・イノベーションを普及させるという観点においても重要である。質疑応答や終了後のアンケートでも、この指摘に賛同するコメントが多数あり、男性の関心を引き、巻き込むことの重要性を共有することができた。
大規模なデータを扱う場合、エクセル等の単純な集計からバイアスを見出すことは困難なため、問題の所在を明確にした上で、適切な描画技術により情報を可視化することがジェンダーバイアスの発見につながることが理解できた。ジェンダード・イノベーション研究においては、セックスやジェンダー等の複数の要素間の相互作用をみる交差性(インターセクショナリティ)の分析に情報可視化の技術が応用できるのではないかと考えた。
記録担当:山本咲子(IGI 特任リサーチフェロー)