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第4回IGIセミナー:開催報告

2023年6月8日更新

性差に基づくヒト脳内情報処理機構の解明に向けて

開催概要

開催日時

2023年3月1日(水)10:00~11:00
講師 小林 一郎(基幹研究院 自然科学系 教授)
開催方法 Zoomミーティング(学内)
参加者数 39名

開催レポート

2023年3月1日(水)、第4回IGI学内セミナー「性差に基づくヒト脳内情報処理機構の解明に向けて」がオンライン方式で開催され、39名が参加した。

本セミナーでは、情報科学の技術を用いて言語知能のシステムを解明している小林一郎教授を講師に招き、ヒト脳内の情報処理機構の観点からの情動の性差に関する最新の実験結果をご紹介いただいた。本報告では、情動を引き起こす刺激として音楽と短歌を取り上げ、音楽を傾聴した際と、短歌を詠んだ際に、ヒトの脳内でどのような情報処理が行われ、そこに性差が存在するのかについて学んだ。

一般的に脳には男女差があると言われている一方で、男性脳、女性脳と2種類に分けることはできないという研究報告もあり、音楽刺激に対するヒト脳内の情報処理機構の十分な解明はなされておらず、多角的な検証が求められている。
小林研究室では、内閣府「国立大学イノベーション創出環境強化事業」(令和3年度)の共同研究者である西田知史博士(脳情報通信融合研究センター)から提供された楽曲データと実測脳活動データを用いて、音楽刺激下の脳内情報処理における男女差の研究を行っている。本セミナーでは、茂木比奈さん(当時、学部4年生)による深層学習モデルによって特徴量を抽出し脳の状態の推定結果と、川﨑春佳さん(当時、修士1年生)による実際に計測した脳活動データを用いた解析結果が紹介された。なお、冒頭にて、解析結果の検証は今後の予定である旨が留意点として説明された。

1つ目の深層学習モデルによる脳の特徴量の抽出解析では、音楽刺激下において、情動処理や価値評価、行動の柔軟性に重要な役割をもつ眼窩全前頭皮質の活動が、男性より女性の方が早い段階から活発になるという性差の結果が示された。また、PageRankというGoogleの検索エンジンにも使用されているアルゴリズムを援用し、脳の領域の重要度を検定した結果、感覚器の活動と連携して自己認識に関係している上頭前回が最も重要である点で男女差はなかったが、上頭前回における右脳と左脳のPageRank値が男女で入れ替わっているという結果が示された。
2つ目の計測脳活動データ解析では、15秒間の曲を聴いたときの脳活動データを使用し、男女差に加え、個人差を識別する実験が実施された。その結果、個人差の影響が大きく表れ、明確な性差は確認されなかったことが説明された。

次に、音楽刺激に関連する短歌のデータ解析について紹介された。短歌は、感情的な文章が詠まれることから言語芸術といわれている。
佐藤杏奈さん(当時、学部4年生)による短歌を詠んだ時の情動に関する脳活動の性差の解析では、感情の形成と処理に関わりを持つ領域や、情動と密接な関係があるとされる領域の一部において男女差があることが明らかになった。さらに、色や形状など視覚対象の特徴を認識する領域や視覚認知の中枢領域など、情動とは関係していないとされる領域においても男女差が確認され、これらの領域が情動のハブとなっている可能性が示唆された。

本セミナーで紹介された知見は、初期段階の実験結果であり、かつ、特定の手法で得られた限られた範囲での実験結果であることを留意したうえで、今後の課題として、脳内情報処理に関するデータ解析の正当性を高めるために、多様な手法を用いて、多角的に検証を進める必要性が提起された。

質疑応答では、5名の参加者から、「色のような視覚的情報においても脳内処理の性差は存在するのだろうか?」、「小学生では男児より女児の方が国語の理解力が高いといわれているが、本セミナーの短歌の分析と関連があるのだろうか?」等の質問や意見があげられた。活発な議論により、参加者、講演者双方にとって実りのある意見交換ができた。

本セミナーでは、まだ解明されていない未知の領域が多いヒトの脳においても、性差が現れる領域があるということがわかり、脳内情報処理の観点からジェンダード・イノベーション研究を進展させる実験手法や、最新の研究動向を参加者間で共有することができた。

記録担当:山本咲子(IGI 特任リサーチフェロー)

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