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2023年9月19日更新
開催日時 |
2023年5月9日(水曜日)13時~14時半 |
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講師 | Man-Yee Kan教授 (オックスフォード大学リナカ・カレッジ) |
開催方法 |
対面 本館135室カンファレンスルーム |
言語 | 英語 |
参加者数 | 31名 |
2023年5月9日(水曜日)、IGI学内セミナー「Introducing the Gen Time Project: Temporal Structures of Gender Inequalities in East Asian and Western Countries(Gen Timeプロジェクトの紹介:東アジアと欧米諸国におけるジェンダー不平等の時間的構造)」を対面形式で開催した。オックスフォード大学リナカ・カレッジのMan-Yee Kan教授を講師に招き、31名が参加した。海外で活躍する研究者の講義を対面で聞くことができ、大変貴重な機会となった。
Kan教授の専門は社会学である。本セミナーでは、Kan教授が代表を務める欧州研究評議会の助成を受けた研究プロジェクト「Gen Time」(2018~2026年)で実施した2つの調査の結果をご報告いただいた。「Gen Time」は、1980年代から2010年代までの、中国、日本、韓国、台湾の生活時間に関する統計データを多国間生活時間研究(MTUS)のフォーマットに整合させ、東アジアにおける生活時間の変化とジェンダーギャップを分析し、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの西洋諸国と比較する研究プロジェクトである。ジェンダー平等の測定方法は様々な指標があるが、例えば、管理職などの上級職に占める女性の割合を測定するような指標では、日常生活における男女の不平等を確認することは難しい。Kan教授らの研究チームは、人々の日常生活に着目し、人々がどのように時間を過ごし、それが人々の幸福に寄与しているのかどうかを明らかにするために、生活時間データを用いる。
1つ目の報告は、先に挙げた東アジア諸国と西洋諸国の日誌データを用いた性別役割分業の傾向についての分析結果である。西洋の自由主義国家、社会民主主義国家、南欧諸国と、台湾、日本では、有償労働時間と家事労働時間における男女格差は、1980年代後半から2000年代では縮小傾向にあったが、2010年代では格差の縮小が停滞しているという共通点があった。特に、日本と韓国のジェンダー格差の縮小は停滞しており、両国の男性の有償労働時間の長さが、家事参加を阻害しているといった指摘があった。また、総労働時間の男女差を見ると、東アジアの各国と南欧諸国では、女性は男性よりも100分から180分も長く働いていることが明らかになった。
ジェンダー格差の大きさ、文化的要因、社会規範、政策はすべて、ジェンダー平等の推進が停滞するか継続するかを決定する上で重要な役割を果たす。1つ目の調査結果から、南欧諸国、日本、韓国が実施している「介護を家族に依存」した政策のままであることは、女性の労働市場での仕事の増加とともに、家事労働時間の減少をも妨げることが明らかになった。
2つ目の報告では、1991年から2019年までのイギリスの家計パネルデータを用いて、パートナーシップと子育てが男女の有償労働時間と家事労働時間に与える影響を調べた結果が紹介された。出産後の女性の有償労働と家事労働の時間配分の変化は男性のそれよりもはるかに大きく、女性は出産を機に、有償労働時間は減り、家事労働時間は増加するが、男性はパートナーが出産しても時間配分に大きな変化はないことが明らかになった。この傾向は30年間継続していることから、イギリスで2010年代に導入された保育料無償化や補助金の増額といった家族政策はジェンダー平等の改善に効果がなかったと結論づけた。
今後の研究課題では、家族がともにいる時間における役割分担や余暇時間の傾向、テクノロジーが生活時間に与える影響とジェンダー差についてなど、詳細な分析を進めていく必要がある。また、日本のデータを用いたジェンダーや家族に関わる分析も進める予定ということで、イギリスと日本の共通点や相違点など、ジェンダー平等において世界から大きく遅れをとっている日本は学ぶべき点が多く、今後のKan教授の研究プロジェクトの進展を楽しみに待ちたい。
Kan教授のセミナーから、各国の統計データを整合させた大規模な国際比較研究のプロセスについて学ぶことができた。収集方法が異なる各国の統計データを整合させることは、骨の折れる作業であると考えられ、本セミナーでは、貴重なデータによる分析結果を惜しみなく共有していただいたことに感謝したい。分析対象国に日本も含まれていたことから、日本のジェンダー格差の解消が、他国と比較して遅れているということがよく理解できる内容であった。質疑応答では、複数の学生、教員から質問があげられ、活発な議論や意見交換が行われた。
記録担当:山本咲子(IGI 特任リサーチフェロー)