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イベントレポート トークイベント「歌舞伎とマンガ」

2021年4月27日更新

坂東巳之助さん
坂東巳之助さん

中野博之さん
中野博之さん

壇上の様子
壇上の様子

2020年12月1日(火)、歌舞伎俳優の坂東巳之助さんと『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さんをゲストにお迎えしてトークイベント「歌舞伎とマンガ」を開催しました。コロナ対策のため会場定員1200名に対し参加者150名とし、距離を保ちながらの開催となりましたが、歌舞伎とマンガへの熱意と愛に溢れたゲストのお話によって実に濃密なイベントとなりました。

近年マンガ原作の演劇作品が数多く上演され、人気を博していますが、そうした流れは歌舞伎にも及んでいます。当イベントでは新たな時代の歌舞伎を、マンガを通じて考えることを目指し、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(2015年初演)と新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』(2018年初演)について、その制作の経緯をおうかがいするとともに、 上演によって浮かび上がった歌舞伎とマンガの親和性などについて話し合いました。上演にあたって両ジャンルの中心的な役割を果たしたお二方のお話は非常に刺激的で、歌舞伎の底力と、両ジャンルの創造のエネルギーを目の当たりとし、学生達は様々な気付きを得たようです。

ここでは学生3名と、『ellipse』54号(お茶の水学術事業会、2021年2月)所収のイベントレポートを掲載します。

当イベントの講演録(全文)を、『比較日本学教育研究部門 研究年報』17号(お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所比較日本学教育研究部門、2021年3月25日)に掲載しています。リポリトジにおけるPDF公開はおこなっておりませんのでご了承ください。


 執筆者の所属・学年は開催当時

 トークイベント「歌舞伎とマンガ」は、歌舞伎もマンガも好きな自分にとって、歌舞伎俳優の坂東巳之助さんと『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さんから同時にお話を伺うことができる夢のような機会でした。
 2015年から上演されたスーパー歌舞伎II『ワンピース』は、人気マンガと歌舞伎の融合ということでメディアでも大きく取り上げられ、当時中学生だった自分にとっても強く印象に残っています。イベントの中で、その『ワンピース』が、実は集英社とアニメ委員会の方たちの雑談から企画が始まり、松竹株式会社に話が持ち込まれたと聞き、非常に驚きました。雑談という漠然とした状態から、類似点はあるものの異文化である歌舞伎とマンガが一つの舞台として形になったのは、歌舞伎とマンガ双方の文化としての底力、またそれらを支える方々の努力によるものだと思いました。
 また、新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』については、巳之助さんが主演をつとめられたということもあり、脚本や制作に関わるお話も伺うことができました。自分自身高校生の頃に劇場で観た作品だったので、その作品ができるまでのお話はとても興味深く、またそれをお二人の口から直接伺えることが嬉しかったです。
 イベント当日は、座れる席を減らしていたり、質疑応答でGoogleフォームを利用していたりなど、空間において密が避けられていましたが、ゲストのお二人が話された約一時間半はとても濃密でした。歌舞伎とマンガの両方の側から話を伺い、それぞれの表現の幅広さや魅力を改めて感じることのできる充実した時間を過ごすことができました。

文教育学部 言語文化学科1年 五十嵐桃寧


 このイベントで特に印象的だったのは、歌舞伎とマンガは親和性が高いというお話です。私はもともと、歌舞伎とマンガは組み合わせるには共通点がないように感じていましたが、歌舞伎の「見得を切る」という独特な演出がマンガの誇張表現とうまくかみ合ったというお話や、歌舞伎も『少年ジャンプ』のマンガもキャラクターが魅力であるというお話を聞き、思っていたよりも歌舞伎とマンガは相性が良いと気付かされました。
 一方で、マンガを歌舞伎化する上でかみ合わない部分もあり、表現のすり合わせを何度も行ったというお話がありました。その中で印象に残っているエピソードがあります。スーパー歌舞伎II『ワンピース』の立ち回りでは、当初、従来の歌舞伎の表現方法にのっとりエドワード・ニューゲート(白ひげ)というキャラクターの背中を斬ってしまっていたところを、原作マンガに精通している巳之助さんの意見で、背中を斬らないように変更したというお話です。歌舞伎の伝統を残す部分と、マンガを再現する部分のバランスを取る難しさと、そのなかにおける巳之助さんのお力を感じました。
 それに加えて、様々な題材を受け止める歌舞伎の懐の深さを知りました。アニメや実写映画、2.5次元ミュージカルなどの他のメディアミックスでは、マンガの忠実な再現が求められ、マンガと違う表現は違和感を持って受け止められる傾向にあると個人的には思っています。その一方、歌舞伎では隈取りや見得などの独特の演出はそのままに、キャラクターや脚本が作られていました。こういった演出がむしろ魅力として多くの人に楽しまれている点から、常に新しいものを取り入れて発展してきたという歌舞伎の特性を実感しました。
 この度のイベントを通して、歌舞伎とマンガという新しいメディアミックスにおける表現の面白さを知ることができました。また、作り手の方々が影響を与え合ったり、新しいファン層の獲得につながっていたりと、マンガを原作としたこれらの演目が人のつながりを作る場にもなっていると知り、様々な面で歌舞伎とマンガのこれからの展開がとても楽しみになりました。
 最後に、このイベントに参加できたことを心から嬉しく思います。巳之助さんと中野さんのお話から、歌舞伎とマンガへの熱意を強く感じ、生活を送る気力をいただきました。このたびは、貴重なお話をまことにありがとうございました。

文教育学部 言語文化学科 日本語・日本文学コース3年 及川慈子


 私はもとよりマンガや伝統芸能に興味があり、このイベントを知り喜び勇んで参加したのですが、大変興味深いお話をいくつも聞くことができました。中でも、マンガと歌舞伎の親和性についてと、『NARUTO-ナルト-』の原作者・岸本斉史先生の感想が印象的でした。
 まず、マンガと歌舞伎が一つの作品として融和できたのは、実は両ジャンルの世界観が本質的に似通っているからだという話が、巳之助さんと中野さん双方からなされました。歌舞伎の「見得」はよく考えると不自然で普通ならしないものですが、自然でかっこいいものとして受容できます。それは歌舞伎では、通常時であれば嘘臭くさえ見える不自然さが真実味を持つ世界観づくりがなされているからなのだそうです。『ジャンプ』作品も同じように、不自然なものが自然にとられるような、いわば「見得」を切り続けているような世界観の中で描かれている、だからこそ一見交わらないように思える歌舞伎に融和し、魅力的な作品として観客の記憶に残ったという指摘がなされました。なぜ『ONE PIECE』と『NARUTO』が、多くのマンガが行なっている2.5次元舞台ではなく、歌舞伎化という難しい試みに挑戦したのかという理由の核心に触れられたような気がしました。
 もう一つ、岸本先生が、歌舞伎のナルトとサスケの戦いによる役者さんたちの実際の消耗具合を見たことで、「今このシーンを描いたらもっと違う描き方ができる気がする」と口にされていたという話をご紹介します。私は自分で話を書いたり小説やマンガを読みながら、実際どの程度動けば人間は消耗するのかと疑問に思うことがありました。命がけの戦いは自分で体験できるものでもなく、想像しきれない部分が多くあるはずです。そのため、プロの漫画家でも勝負における消耗は想像しきれないと感じていたこと、そして原作者にこうした形で歌舞伎がフィードバックされたことが印象的でした。また、今まではマンガ原作をきっかけに若者が歌舞伎を見るようになった等、歌舞伎側の利点にしか目を向けていませんでしたが、マンガにも影響があったという大きな気付きを得ることができました。
 以上のような当事者のお話を通じて、多くの視点を得ることができました。私は歌舞伎化されると聞いた時、別の媒体で表現するリスクばかりが気になりましたが、例えば『ONE PIECE』のキャラクター〈白ひげ〉は逃げ疵を受けないからと、巳之助さんが歌舞伎の典型的な立ち回りとは異なる提案なさったというお話を聞き、これほどに作品愛を持った方たちの存在があったからこそ、多くの観客に愛される作品になったのだと感銘を受けました。作品を作り上げる方々の情熱や考えがひしと伝わってくるトークイベントで、色々と気付きを得ることができた貴重な経験となりました。

文教育学部 人文科学科 比較歴史学コース2年 中尾優李

エリプス
『ellipse』54号

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