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イベントレポート 特別講義「中村七之助×お茶大生」

2021年4月27日更新

中村七之助さん
中村七之助さん

中村七之助さん
学内の会議室からオンラインでお話いただきました

2021年3月18日(木)、歌舞伎俳優の中村七之助さんを講師にお迎えし、大学生・大学院生40名を対象とした特別講義を開催しました。中村勘九郎さんによる昨年11月の特別講義に続き、第一線でご活躍の演者の方から歌舞伎のお話をうかがう大変貴重な機会となりました。

七之助さんは歌舞伎座第一部出演のご多忙の中にも関わらず、様々なテーマについて大変丁寧にお話いただきました。「どのようなことでもお話しますよ」というおおらかなお姿が印象的で、そのお言葉の通り、話題は芸の伝承やご家族、さらにはジェンダーや地方創生といった極めて今日的なことまで多岐にわたりました。

オンライン開催という物理的な距離などもろともしない、七之助さんの凜とした佇まいと歌舞伎への熱い思いに直接触れ、学生たちは感動すると共に実に多くの刺激を受けたようです。ここでは受講者3名によるイベントレポートをご紹介します。


 執筆者の所属・学年は開催当時

 画面に初めて七之助さんが映った時の第一印象を、何と表現したらよいのか分かりません。オンライン授業を1年間受けてきて、授業外でも様々な方と画面越しにお会いしましたが、お顔を見ただけで、こんなにハッとしたのは初めてでした。まるで画面から清々しい空気が流れてくるような、心がシンとする感覚を覚えたのです。きっと七之助さんのオーラが、空間を超えて画面越しに溢れてきたのだと思います。また、勘九郎さんのときには、ピンと線が通っているのに、しなやかで優しい声に感銘を受けました。物理的な空間なんてものともしない、お二人の人を魅了する力。それを肌で感じることができて、とても幸せでした。
 今回、私がお聞きしたのは、「いつ歌舞伎役者として生きていくことを決めたのか」という質問です。春から3年生になり、就活を始める時期にありますが、未だに自分が何をしていきたいかを決められずにいます。物心ついたときから舞台に立ち続けている七之助さんに、いつ自分の道を決められたのかを、ぜひお聞きしたいと思いました。
 七之助さんは、中学生くらいの時期、お父様の勘三郎さんから「歌舞伎をやめたいなら、やめてもいい。二人ともやめるなら、養子をとるから」と言われたことを話してくださいました。この出来事は、今でも強烈に覚えているそうで、そこで「やります」と言った時が、一つの節目になったということでした。中学生という早さもさることながら、「やめる」という選択肢を残した上で、お二人に判断を任せた勘三郎さんのお考えが、とても印象的です。
 七之助さんは、やりたいことが見つからない人が多い世の中で、歌舞伎という大好きなものがあって、それができているのは幸せなことだとおっしゃっていました。そして、それは、ウルトラマンのような憧れの存在のお父様やお祖父様がいて、自然と歌舞伎を好きにしてくれたからだと感謝していらっしゃいました。最近、無意識に役者として見るようになったという勘太郎さんや長三郎さんにとっては、七之助さんや勘九郎さんもヒーローなのだと思います。世襲には、技術や知識だけでなく、歌舞伎を好きだという気持ちの継承が大事にされているのだと学びました。
 七之助さんは、歌舞伎は生きていくために必須ではない、コロナでその危機感を改めて実感したとおっしゃっていました。しかし、反骨精神や、何か面白いことをやろうという心意気が歌舞伎の根本にあるというお話を聞き、今こそ歌舞伎が求められているのではないかと考えます。「コロナに負けてたまるか!」という試行錯誤が、未来の「伝統」に繋がるかもしれません。また、女子学生としては、強い女性が活躍する歌舞伎も見てみたいです。日々進化し、伝統が積み重ねられる、生きた文化である歌舞伎を、これから楽しんでいきたいと思います。

生活科学部 人間生活学科 生活文化学講座2年 川柳琴美


 私は舞踊教育学コースに所属しており、日本での歌舞伎を含む様々な舞台芸術の今後の在り方について強い関心を抱いていたため、第一線で活躍されている七之助さんにお話を伺いたいと思い受講しました。
 講義は学生からの質問にお答えいただく形で進行しました。質問は歌舞伎役者という生き方、コロナ禍による影響、女方に関する内容が多かったように感じます。
 私が地方での公演をどう捉えてらっしゃるのかと質問した際には、お父上である中村勘三郎さんが熱心に取り組み、現在はご兄弟がその遺志を引き継がれている地方の芝居小屋への巡業について詳しくお話しいただきました。歌舞伎座というホームはあるけれども、役者が芝居をすることで、芝居小屋に魂が吹き込まれるのだというお考えのもと、地方にも積極的に足を運びたいとおっしゃっていました。私の地元が香川県であることを伝えると、四国こんぴら歌舞伎大芝居に関するエピソードも楽しくお話しくださいました。地方での公演が歌舞伎界にとって大切にされていることが伝わり、地元を誇りに感じました。
 また私が卒業後取り組む、瀬戸内の直島でのアートを活用した地域振興の活動に関するお話に興味を持って頂けたのが個人的に嬉しかったです。以前足を運ばれたことがあるらしく、是非直島で歌舞伎をやりたいとおっしゃっていただきました。直島では、古くから残る文化を地元の人々が誇り、活用することで良いコミュニティを作っていくという取り組みが行われています。歌舞伎という日本の文化と直島の融合をいつか実現できたら、と期待が膨らみました。
 七之助さんとのお話を通して、舞台芸術に対する志がより明確になり、今後の励みとなりました。多くの気付きを得られるため、またの機会がありましたら皆さんも是非積極的に受講してみてくだい。

文教育学部 芸術・表現行動学科 舞踊教育学コース4年 串田涼香


 特別講義「中村七之助×お茶大生」では、多岐にわたるお話をしていただき、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
 印象的だったのは、七之助さんの「歌舞伎が伝統芸能になってしまった」という言葉です。歌舞伎は本来、支配者へ物申す部分を持ち合わせていました。江戸時代、庶民の娯楽であった歌舞伎が、現代では「伝統芸能」として格式高いものと扱われています。今では敷居が高く感じられますが、本来の成り立ちを考えると、多くの人が気軽に観劇できるものだとお話しいただきました。
 質問の機会をいただき、舞踊の際の踊り分け・演じ分けについて伺いました。具体的な口伝の例として、娘役の時は頭からお水を溢すように首を動かすということ、赤姫で泣くときは前にある簪がシャラシャラとするように泣くことを教えていただきました。通常、その道の人以外に知られることの無いような、口承による技術の伝承、その内容について、興味深く伺いました。
 また、登場したときに、どのような役でいかなる性格か、ということまで客席の人々がすぐに分かるように演じるという心がけ、言い換えると早変わりショーにならないようにすることをお話いただきました。踊りの際は振りの順番が体に染みつくまでお稽古をし、手順を考えずに踊れるようになってから気持ちをのせて踊るお稽古をするといいます。
 新しい演出をすると、専門家の方に厳しく書かれることもあるそうです。しかし、それがお客様には評判となり、いつしかその新演出がスタンダードなものとなる場合もあります。一例として、七之助さんのひいおじい様である六代目尾上菊五郎さんの「藤娘」を挙げられました。伝統を大切にしながらも、その時代時代に合わせて、良いと思うものを積極的に取り入れる姿勢が、永きにわたり人々に愛される芸能「歌舞伎」を形作ってきたのでしょう。七之助さんのお父様である十八代目中村勘三郎さんは、江戸時代にエレキギターがあったならば歌舞伎で使われていたはずだとおっしゃったそうです。視野を広く持ち、既成概念にとらわれずに傾き続ける心意気も伝承されているのだと思います。
 伝統と革新を同時に感じられる芸能が、歌舞伎なのだと感じました。七之助さんの歌舞伎に対する真摯なお姿を垣間見せていただきました。末筆ながら、このような貴重な機会を設けてくださった中村七之助さんとご関係の皆様に感謝申し上げます。

 比較社会文化学専攻 歴史文化学コース博士前期課程2年 森岡麗

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