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イベントレポート 鼎談「伝統芸能の保護と振興――文化庁と国立劇場」

2022年3月14日更新

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学内の国際交流留学生プラザより配信しました

2022年1月27日(木)、元国立劇場調査養成部主席芸能調査役の石橋健一郎さんと、文化庁文化財第一課芸能部門文化財調査官の金子健さんを講師にお迎えし、鼎談「伝統芸能の保護と振興――文化庁と国立劇場」を開催しました。新型コロナウイルスの蔓延防止のため、当初予定していた対面式からオンラインに切り替えての実施となりました。参加者は約80名。本学の学生や教職員をはじめ、実際に文化政策の現場におられる方など、様々な方にご参加いただきました。

本イベントの狙いは、文化政策の立場から伝統芸能の未来への継承を考えることです。日本には能楽・人形浄瑠璃文楽・歌舞伎等、多様な伝統芸能がありますが、これらの伝統芸能に国はどのような形で関わってきたのか――無形文化財(伝統芸能)に関わる様々な政策を担う文化庁と、上演の現場である国立劇場について、その活動の歴史や現在の取り組みについておうかがいしました。
話題は、「文化財保護法」のなかの無形文化財の位置づけ、有形文化財との共通点や相違点、日本が世界をリードする「人間国宝」制度、国立劇場の発足経緯やその活動といった、長い歴史がある取り組みから、国立劇場の再整備、コロナ禍における施策、「文化財の匠プロジェクト」と「邦楽普及拡大推進事業」等の、最新の活動まで多岐にわたり、あっという間の90分となりました。

「文化財保護法」は明治期から繋がる施策ですが、芸能を含む無形文化財をその保護に組み込んだのは戦後のことでした。その背景にあるのは、娯楽の多様化と生活の変化によって伝統芸能を取り巻く状況が大きく変わったことですが、〈「文化財保護法」が無形文化財を対象にする〉という今日では一見当たり前のことが、実は日本独自の取り組みであり、様々な時代の芸能が共存しているという、日本演劇のあり方そのものを象徴していることを再確認しました。
近年は、名人の逝去や、長い歴史を持つ雑誌の休刊、そしてコロナウイルスの流行など残念なことが多く、伝統芸能を取り巻く状況は決して安泰といえません。しかし今回のお話からは、伝統芸能を受け継ぐために、部署や省庁の枠を超えた繋がりを模索しながら、長い時間軸を見据えて様々な課題に向き合っておられることがわかりました。そして講師お二方のお言葉の端々から伝わるのは、何よりも伝統芸能への幅広い知識と深い愛情で、こうした方々が現場におられるのであれば決して悲観することもないと思えました。

「「伝統芸能を保存すべき」という前提ではなく、「なぜ保存しなくてはいけないのか」という疑問を持ち、その上でその回答を見つけてほしい」(石橋さん)
「若いうちから伝統芸能の世界に触れ、好きになってもらうことが大切」(金子さん)
という言葉が非常に印象的で、これこそ大学という教育現場、そして当プロジェクトの課題や使命であると感じ、身の引き締まる思いがしました。
ここでは本学学生のイベントレポートをご紹介します。

なお、当イベントの講演録を、『比較日本学教育研究部門 研究年報』19号(お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所比較日本学教育研究部門、2023年3月)に掲載しています。


執筆者の所属・学年は開催当時

 観劇や文化行政に関心を持っており、興味深く拝聴させていただきました。埋忠先生の日本古典文学論特殊講義IIでも、コロナ禍での演劇の取り組みについて、受講生の実際の観劇を例に話し合ったり、実際に自分自身でも観劇する際に注目したりしていたので、保護をしたり公開したりする現場の視点からの現状を知ることができ、興味深かったし、貴重なお話を聞けて有意義な学びとなりました。
 文化財保護法について、文化財の語や考え方が現れ始めたこと、無形の文化財まで含め画期的であったこと、等改めて学び勉強になりました。指定と認定について、運用の現状、対象物や意味合いの微妙な違いも、興味深く拝聴しました。文化財を残し受け継いでいくために、施策・制度として運用されるものであり、名誉や賞を意味するものではない、と聞き、一般的なイメージと乖離があるように感じました。指定や認定が決定すると「おめでとうございます」ではなく「お願いします」と伝える、とのお話にリアルな現場が顕著に表れていて、分かりやすかったし印象に残りました。
 ありきたりではありますが、実に様々なところが関わり協力し合って、取り組みが進められているのだなと実感しました。例えば、コロナ禍での演劇界の大打撃への対応は、経済産業省と連携がされています。キャンセル料の補充や、映像配信と、それに伴う著作権への補助、将来再公演が実現した際のサポート、等、文化庁、経済産業省それぞれの職掌・強みを活かして、実に多様な取り組みがされていて印象に残りました。また、指定や保護をしただけでは足りず、公開・上演をしなければ意味がないため、国立劇場の活用も連携して進められています。文化庁という行政がすべき施策、それを直に活かす国立施設、それをさらに民間施設へ波及、といった流れを今後さらに見てみたいと感じました。
 今後を見据え、観劇者を増やす取り組みについて、必ずしもコアな伝統芸能ファンを増やす観点に固定せず、関心を持ち触れる人の数や幅を増やすための取り組みがむしろ鍵になってくる、若い内に出会って関心を持ってもらえるようにしたい、とのざっくばらんなお話が印象に残りました。私自身、正直に申し上げて、コアな伝統芸能ファンとは言えません。高校の頃の鑑賞教室や、最近では大学の講義を受けて、かつ気になる公演や役者さんをきっかけに、歌舞伎を数回観劇した、といった程度で、観たことがない芸能も多くあります。ですが、鑑賞教室や講義、講演会をきっかけに足を運んだことはたしかに事実です。まずは観劇の場を多様に設けること、その情報を知るきっかけを創り、効果的に伝えること、が今後より一層求められるのではないか、と改めて考えました。
 大学での学びや関心をより深め、趣味の観劇をより楽しむきっかけともなる講演でした。また受講してみたいですし、皆様も是非参加してみていただきたいです、おすすめです。ご講演くださった石橋様、金子様、埋忠先生はじめご関係者の皆様、非常に貴重な機会をありがとうございました。

文教育学部人文科学科 比較歴史学コース3年 下立藍夏

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