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2026年4月30日更新

立ったまま丁寧に語り続ける笑也さんの姿が印象的でした

笑也さんのお姿は所作の美しさが際立ちました
2025年6月18日(水)、歌舞伎俳優の市川笑也さんを講師にお迎えし、トークイベント「歌舞伎の伝統と革新 ―澤瀉屋歌舞伎、宝塚、歌舞伎の未来―」を開催しました。本学の大学生・大学院生をはじめ、附属校生徒・教職員・桜蔭会会員の方々など、計74名が参加しました。
笑也さんは歌舞伎とは縁のないご家庭に生まれ、国立劇場研修所を経て1981年に三代目市川猿之助(二代目市川猿翁、澤瀉屋)に入門し、研鑽を積まれました。『當世流小栗判官』の照手姫やスーパー歌舞伎『新・三国志』の劉備などで猿之助さんの相手役を務め、透き通る声を活かした瑞々しい芸風で人気女形として活躍。近年も22年ぶりとなる劉備役や、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』での峰不二子役など、話題作に数多く出演されています。本イベントは、笑也さんのお話を通じて若い世代が歌舞伎の魅力に触れ、上演を取り巻く現状を理解することで、歌舞伎の未来を考える機会とすることを目的としました。
最初のテーマ「澤瀉屋歌舞伎をめぐって」では、笑也さんのこれまでの歩みを、師である猿之助さんの活動と重ねながら語っていただきました。猿之助さんは数々の革新的な試みに挑み「歌舞伎界の風雲児」と呼ばれましたが、長年そばで支え続けた笑也さんによるユーモアあふれるエピソードは刺激的で、かつて観た舞台の記憶が鮮やかに蘇るものでした。台詞は観客に伝わることが第一であり、重要な部分は音に乗せるのではなく「話す」ように指導されたというお話も印象的でした。また、猿之助さんが野田秀樹さんの舞台を観劇した際、早口でも台詞が明瞭に聞き取れると称賛していたというエピソードからは、「野田歌舞伎」への評価もうかがいたいと思わせられました。猿之助さんの舞台が歌舞伎に馴染みのない観客をも惹きつけた背景には、歌舞伎を江戸時代のように大衆が楽しめる演劇にしたいという強い信念と、作品に向き合う妥協なき姿勢があったことがよく伝わってきました。
続くテーマ「他ジャンルとの交流」では、宝塚やマンガなどとの関係性についてお話を伺いました。『新・三国志』の劉備は女性が男装して戦う設定ですが、その役作りは元宝塚トップスター・真琴つばささんとの交流から学ぶところが大きかったそうです。舞台と日常で声のトーンが大きく変わらない真琴さんの姿から、気持ちの入り方によって性の境界を演じ分けることの重要性を感じたといいます。笑也さんの劉備に『ベルサイユのばら』のオスカルの面影を感じた観客も多く、宝塚が歌舞伎の水脈から生まれた劇団である一方、その影響は一方向ではなく、相互の交流の中で表現が磨かれてきたことを実感しました。また、新作歌舞伎『NARUTO―ナルト―』の綱手や『流白浪燦星(ルパン三世)』の峰不二子を演じる際には、動作や化粧などで新しい表現を模索したとのこと。現代作品では歩き方を女形の基本である内輪にしなかったという話題には、ジェンダー表象の観点から興味を持つ学生もいたようです。
最後のテーマ「歌舞伎の未来」では、歌舞伎の現状と今後について率直に語っていただきました。「歌舞伎は変わり続けるもの。変わらないのはお客様を大切にすること」という言葉は、参加者の心に深く残りました。質疑応答でも、寄せられた質問一つひとつに丁寧に、身近な例を交えながらユーモアを添えて答えてくださいました。
お話の合間には、女形の所作や台詞、さらにはさまざまな演劇人の声色まで披露してくださり、その鮮やかさに長年第一線で活躍してきた表現者の凄みを感じました。歌舞伎を観たことのない学生にとっても、それこそが歌舞伎の魅力を最も雄弁に示す瞬間となりました。
本イベントを通じて、参加者は歌舞伎の歴史や技法だけでなく、異ジャンルとの交流や新作への挑戦など、歌舞伎が常に変化し続ける芸能であることを実感しました。笑也さんの言葉や実演からは、伝統を守りながらも未来へと開かれた歌舞伎の姿が鮮やかに伝わり、参加者一人ひとりが未来へ継承すべき大切な文化として歌舞伎を捉え直す貴重な機会となりました。
以下に参加者から寄せられたコメントの一部を掲載します。 また『ellipse』68号(お茶の水学術事業会、2025年10月)にイベントレポートが掲載されましたので、どうぞご覧ください。